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Translated by Kazunori Akashi
Reviewed by Yasushi Aoki

0:11 2011年3月10日 — 私はケンブリッジにある MITメディアラボで 教員や学生やスタッフと 私が次期所長になるべきか 相談していました

0:24 その晩 真夜中に 日本の太平洋沖で マグニチュード9の 地震が起きました 妻や家族が日本にいたので ニュースが伝わり始めると すごく動揺しました 私はニュースを見続け 政府関係者や東京電力の 記者会見に 釘付けになりました そして原子炉が 爆発して 放射性物質の雲が 200キロしか離れていない 我が家の方へ 広がっている事を知ったのです でも テレビは 私達が最も知りたいことを 何一つ伝えていませんでした 原子炉で何が起きているのか 放射線はどうなっているか 家族に危険はないか・・・ それが一番知りたかったのです

1:07 その時 直感的に思いました インターネットを使って 自分の力で 解決すべきではないかと ネットには私と同じように 状況を把握したがっている 人々がいました そこで ゆるやかな組織を作り 「セーフキャスト」と名付けて 放射線量の測定や 測定データの公開を することにしました 政府が そういうことを してくれるとは 思えなかったからです

1:34 3年後の今では 測定地点は1,600万か所に上り ガイガーカウンターも 自前で設計し 誰でも図面をダウンロードして ネットワークに参加できるように なっています 日本のほぼ全域と 世界各地の 放射線量が見られる アプリもあります おそらく これは世界でも 最も成功した — 市民主体の科学プロジェクトで 世界でも最大級の 放射線測定データを 公開しています

1:58 面白いと思うのは 自分で —(拍手) どうも 自分で何をやっているのか よくわかっていない 素人集団が どのように集まって NGOや政府すら できなかったことを 成し遂げられたのか ということです 私はインターネットに 鍵があると思います これは まぐれではありません 運でもないし 私達が特別だったわけでもありません 皆を1つにするような災害が きっかけには なりましたが これはインターネットや その他の状況によって 可能になった — 新しい方法のおかげなのです この新たな原理について お話ししたいと思います

2:38 皆さん インターネットがまだ なかった頃を覚えていますか?(笑) その時代を「ネット前」と 呼びましょう ネット前では 物事はシンプルでした すべてがユークリッド幾何学的 ニュートン力学的で それなりに予測可能でした みんな未来を 予測しようとしていて 経済学者ですら そうだったのです その後 インターネットが登場し 世界は 極めて複雑 — 低コスト 高速になり 私達が後生大事にしてきた ニュートンの法則は 一部にしか当てはまらないことが はっきりしてきました そこで私達が気づいたのは この予測不能な世界で うまくやっている人のほとんどが 今までとは違う原理に 従っている点でした 少し説明しましょう

3:23 インターネット以前は サービスを立ち上げる場合 — ハードウェアレイヤと ネットワークレイヤと ソフトを作っていました 何かちゃんとしたものを 作ろうと思ったら 何百万ドルもかかりました 何百万ドルもかかる 大事業を始めるには 計画を立てるために MBAを持った人を雇い 投資会社や 大企業から資金を集め デザイナーと 技術者を雇って製品を 作らせていました これがインターネット以前 「ネット前」のイノベーションモデルです ところがネットの出現で イノベーションの コストは急激に下がりました 共同作業や流通 コミュニケーションのコスト低下と ムーアの法則によって 新規事業を立ち上げるコストは ほぼゼロになりました Googleにせよ Facebookにせよ Yahooにせよ 学生達が許可なく イノベーションを 進めた結果です 誰の許可も得ず プレゼンもせず まず何かを作ってから 資金を集め その後 ビジネスプランを考えて 必要になったら MBA取得者を雇うのです つまり 少なくとも ソフトとサービスの分野では インターネットによって MBA主導の イノベーションモデルから デザイナーと技術者主導の モデルへと移行したのです インターネットによって 力と金と権威はあるが 小回りがきかない 既存の大組織から 学生寮や起業家の元へと イノベーションの場が 移ったのです ネットでそういうことが 起きているのは周知の事実です それが別なところでも 起きているのが分かります 例を挙げましょう

4:47 メディアラボで扱うのは ハードだけではありません 何でもやります 生物学もハードも扱っていて ニコラス・ネグロポンテの 有名なモットーは「実演か死か」です 「論文を出すか去るか」という 旧来の学問の 思考法とは対照的です 彼はよく言っていました 「デモは一度成功すればいい 私達が世界に 影響を与える手段とは 私達に刺激を受けた大企業が Kindleや レゴ マインドストームのような 製品を作ることなのだから」 でも製品をこれほど安価に 世界に広められるようになった今 — 私はモットーを変えたいと思います これは公式声明です 「広めるか死か」 これが新たなモットーです 製品が重要性を 持つようにするには 世界中に広める必要があります 大企業が 主体になることもあります ネグロポンテの 人工衛星の話のように (拍手) ありがとう ただ自分で始めるべきです 大きな組織がやってくれるのを 待っていてはいけません

5:39 それで 私達は去年 大勢の学生を深圳に派遣し 工場でイノベーターと 交流させました これは本当に素晴らしかった そこには 工作機械はありましたが 試作品もプレゼンも ありません 彼らは工作機械の上で 直に新たなものを 生み出していたのです デザイナーが 工場にいますが デザイナーの中にも 工場があるような感じです 露店に出かけていって のぞいてみると こういった独自の 携帯電話が見られます パロアルトの若者なら ウェブサイトを 立ち上げるところを 深圳の若者は新しい 携帯電話を作るんです ウェブサイトを 作るような手軽さで 携帯電話を作っていて そのイノベーションは ジャングルのように 繁茂しています 深圳の若者は 携帯電話を いくつか作っては 露店でそれを売り 他の連中が作った製品を見て 戻って もう2千台ほど作り また売りに行く これはソフト開発と 似ていませんか? アジャイル開発やA/Bテスト — イテレーションを 思い起こさせます ソフトでしかできないと 思われていたことを 彼らはハードでやっています だから次のフェローには 革新的な 深圳の人を 選びたいと思っています

6:43 イノベーションは まさに 周縁へと広がっているのです 3Dプリンターなんかが よく話題になりますが MITの誇る卒業生の リモアのお気に入りは サムスンテックウィン製の ピック&プレース・マシンです この機械は1時間に 2万3千個の部品を 電子基板に配置できます 言うなれば箱に入ったミニ工場です 以前は工場で 大勢の労働者が手作業で やっていたことを ニューヨークにある この小さな箱の中で 効率よくできるのです だから彼女は わざわざ 深圳まで行かなくても この箱を買うだけで 製造できるのです イノベーションのコストや 試作や流通 製造やハードのコストは 非常に安価になったので イノベーションの場が広がり 学生や起業家でも 製造が可能になりつつあります これは最近のことですが ソフトウェアで起きたのと 同様の変化が起きるでしょう

7:33 「ソロナ」はデュポン社が 開発したプロセスで 遺伝子操作した微生物を使って トウモロコシの糖から ポリエステルを作ります これは化石燃料から作る方法より 3割も効率がよく ずっと環境に優しいのです 遺伝子工学や 生体工学によって 化学や計算や 記憶素子といった領域で 新たな機会が生まれつつあります 医療の分野でも 可能性が広がるでしょうし そのうち椅子や建物まで 育てられるように なるかもしれません ただ問題は ソロナの開発には 約4億ドルかかり 完成まで7年もかかった点です まるでメインフレームの 時代のようです ただ 生体工学でも イノベーションの コストは下がっています これはデスクトップ DNAシーケンサーです 昔は遺伝子の読み取りには 莫大な費用がかかりました でも今では机の上で 学生が寮の自室でもできるのです これはGen9社の ゲノムアセンブラです これまでは 遺伝子をプリントするには 研究所の人間が スポイトを使って 手で配列するため 塩基対100個につき 1つのエラーが起こる上に 長い時間と 巨額の費用が必要でした でもこの新しい装置は チップ上で遺伝子を配列し エラーは 塩基対100個どころか 1万個につき1つです この装置は 世界で1年に合成されている 遺伝子の量に相当する 年間2億の塩基対を合成できます 例えると トランジスタラジオを 手作業で作る段階から Pentiumプロセッサへと 移行したようなものです この装置は生体工学界の Pentiumとなり — 生体工学が 学生寮や新興企業にまで 広がるでしょう

9:05 同じ事がソフト ハード 生体工学の分野で 起きています まったく新しい イノベーションの考え方です これはボトム・アップで 民主的で 混沌としていて 制御するのは困難です 悪いことではありませんが まったく新しいので これまで私達が培ってきた ― 組織のルールは役に立ちません そこでは誰もが 別の原則に従って 活動しているのです 私が気に入っている原則の1つは 「引き出す力」です これは必要になった時に ネットワークから リソースを引き出すという考え方で リソースを1カ所に蓄えて すべてを コントロールするのと対照的です

9:38 セーフキャストの場合 震災が起きた時 — 私には何の知識も ありませんでした でもハッカースペースの 運営をしていたショーンや 最初のガイガーカウンターを 作ってくれた アナログ・ハードのハッカー ピーター スリーマイル島原発が メルトダウンした時に モニタリング・システムを作った ダンを見つけることができました 震災前だったら 見つけることは できなかったでしょうし 必要な時にネットで見つけたほうが 良かったのです

10:03 私は大学を3度も中退しているので 「教育より学び」という考え方が 深く心に刻まれています 私にとって 教育とは与えてもらうもの — 学びとは自分でするものです

10:14 (拍手)

10:18 偏見かもしれませんが 教育は 外に出て何かやる前に 百科事典を 暗記させようとしている ように見えます でも私の携帯には Wikipediaがあります 教育においては たった1人 どこかの山の頂で HBの鉛筆1本だけで 問題解決することが 前提とされているようですが 実際には 私達は常につながっていて いつでも仲間がいて 必要ならWikipediaで 調べられるのです 学ばなければならないのは 学び方なのです セーフキャストを 3年前に始めた頃 — 私達は素人の集団に 過ぎませんでした でも おそらく今では グループ全体としては データの収集と公開 市民による科学の推進について どこよりも 豊富なノウハウを持っていると 言ってよいでしょう

11:01 そして「地図よりコンパス」 — この原理の考え方はこうです 計画を立てるのに必要な — コストは どんどん上がっているのに 計画自体は それほど 正確でも有益でもありません だから セーフキャストでは データを集めて 公開したいという 想いだけで進み 綿密な計画は立てませんでした まず考えたのは 「ガイガーカウンターを入手しよう」 「売り切れだ」 「じゃあ作ろう」 「センサーが足りない」 「でも 携帯用ならできそうだ」 「車で測定して回ろう」 「ボランティアを募ろう」 「資金不足だ」 「Kickstarterで集めよう」・・・ こういったことすべてを 計画するのは無理です しかし強力なコンパスを持つことで 目指すべき方向がわかりました これはアジャイル開発に よく似ています コンパスという 考え方は重要です

11:44 幸運なことに たとえ世界が極めて複雑でも やるべきことは 単純なのです すべてを計画し すべてを揃え 完璧に準備を整えなければ — などと考えるのは そろそろやめにして つながることに力を注ぎ 常に学び続け アンテナを高くして 「今」に集中すべきです

12:07 だから私は「フューチャリスト」という 言葉は嫌いです 私達は「ナウ-イスト」に なるべきなんです 今の私達がそうであるように

12:18 どうもありがとう

12:20 (拍手)