エリザベス・マーチソン
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ガンはなにも特別な疾病ではありません しかし通常 ガンが伝染するとは 考えません タスマニアデビルの事例によって ガンは伝染する可能性があるだけではなく 種の存続を脅かす可能性があることも 明らかとなりました

まず タスマニアデビルとは何でしょう? クルクル回るアニメキャラのタズを ご存知の方も多いでしょう しかし実際に世界最大の肉食有袋類の タスマニアデビルという動物が 存在することを 知っている方は多くありません 有袋類とはカンガルーのように 腹部に袋をもつ哺乳類です タスマニアデビルという名前は 夜に発する恐ろしい 叫び声に由来しています

(叫び声)

(笑)

タスマニアデビルは腐肉食動物で 強力なあごと 鋭い歯で 動物の腐った死骸をかみ砕きます タスマニアデビルは オーストラリア南部に位置する タスマニア島という 小さな島だけに生息しています 凶暴な外見にもかかわらず タスマニアデビルは 愛らしい小さな動物です 実際タスマニアで育った私も 野生のタスマニアデビルに 出会った時は いつも 野生のタスマニアデビルに 出会った時は いつも 本当に興奮したものです

しかしタスマニアデビルの数は ものすごい勢いで減少しています 事実 20〜30年以内に 野生のタスマニアデビルが 絶減するのではと 懸念されています この原因は ある 伝染力のあるガンの 出現です

始まりは 1996年に 野生動物の写真家が撮った 顔に大きな腫瘍のある タスマニアデビルの写真でした 当時は偶発的なものと 考えられていました 動物にも人間同様に 奇怪な腫瘍ができることがあります しかし私たちは これこそが現在 タスマニアで蔓延している 新らしいガンの最初の発見例であったと 確信しています この病気は1996年に タスマニア北東部で 初めて確認されて以来 大きな波のように タスマニア中に広がりました 現在影響を受けずに 残っている個体は ほんの一握りです

タスマニアデビルが このガンを発症すると 通常 顔面もしくは口内に 腫瘍ができます これらの腫瘍は この写真のように 大きくなってしまいます 次にお見せする写真は 本当にひどいものです これらは否応なしに このように大きく 潰瘍性の腫瘍に進行するのです

これは私が実際に目にした 初めての事例だったので 特に印象に残っています 悪臭を放つ潰瘍性巨大腫瘍のために 下あごが外れてしまった このメスのタスマニアンデビルを 目の当たりにした恐怖は 今でも覚えています 何日も食べておらず 内臓は寄生虫でいっぱいでした 腫瘍は体中に転移しています それでも袋の中の 小さな3匹の赤ん坊に 母乳を与えていました もちろん赤ん坊も 一緒に死にました 幼すぎて母親なしでは 生き残れなかったのです このメスが生息していた地域では 90%以上のタスマニアデビルが この病気で死んでしまいました

タスマニアデビルを襲う この感染性のガンに 世界中の科学者たちが 大変な興味を示しました 私達はすぐにウィルスで伝染する 子宮頸ガンや 種々のガンを合併する AIDSの流行のことを考えました 状況から このガンがウィルスによって 伝染しているように思われたからです しかしウイルス感染症でないことが 今ではわかっています 実はこのガンの感染源は 思いもしない 恐ろしいものでした この原因を説明するために まずガン自体について もう少しお話し しなくてはいけません

ガンは世界中で毎年 何百万人もが発症する疾患です この部屋にいる方の 3分の1は いつかガンにかかるでしょう 私自身は14歳の時 大腸の腫瘍を摘出されました ガンは 重要な遺伝子に 突然変異を生じ その細胞が 次々に増殖することで 発生します 矛盾のように思えますが 一旦このような細胞が確立されると 自然選択はガン細胞の増殖に 有利に働いてしまうのです 自然選択は適者生存です 細胞分裂の速いガン細胞の集団の中で 新しい突然変異を起こし 更に速く増殖し より効果的に栄養を獲得し 体に浸潤する細胞が出現すると それが進化により 選択されるのです

ガンの治療が困難なのはそのためです ガンは進化します 薬物を投与しても 耐性細胞が出現し成長します 驚くことに 適切な環境と栄養があれば ガンは永遠に 成長する可能性を持っています しかしガンは生物の身体を 離れることはできません ガンが増殖を続けて 体中に広がり 体を食い尽くしてしまうと 患者の身体もガンそのものも 死んでしまうのです

ガンは短命で奇妙な 自減的側面を持つ生物 ― 進化的行き詰まりとでも言えましょう しかしそのガンが 驚くべき進化的適応を獲得したのが タスマニアデビルの事例だったのです ガンのDNAを解析することで この謎が解けました 多くの人との共同研究ですが 私が数年前に行った 追認実験を通して説明します

次のスライドは悲惨です これはジョナスです 私達の発見した 顔に大きな腫瘍ができた タスマニアデビルです 私は遺伝学者として DNAや突然変異の分析に 興味があります この機会にジョナスの顔の腫瘍と 身体 何か所からか サンプルを取り 研究所に持ち帰って DNAを抽出しました ジョナスの顔にできた腫瘍のDNAと 身体から採取したDNAを 比較してみると 遺伝子プロファイルが 全く異なっていました 事実 ジョナス自身と ジョナスにできた腫瘍とは 皆さん自身と 皆さんの隣に座っている人ほど 違っていました つまりジョナスの腫瘍は 自身の体内で生成されたものでは なかったのです 更に遺伝子プロファイルを 分析していくと ジョナスの腫瘍はおそらく まずメスのタスマニアデビルから 生じたものだと判明しました ジョナスは明らかにオスなのに

なぜ他の個体で 生まれたガンが ジョナスの顔で 増殖していたのでしょうか? ジョナスの顔で 増殖していたのでしょうか? タスマニア中の何百もの タスマニアデビルの ガンを分析すると 重大なことが判明しました 全てのガンが 同じDNAを共有していたのです 少し考えて下さい つまり一匹のタスマニアデビルから 発症したガンが その個体を離れた後 タスマニア全土の個体へと 広がっていったということです

しかしガンは どのように 集団内で伝染したのでしょうか 野生のデビルの行動特性を 思い返し 最後の謎が解けました 彼らはお互いを 特に顔を 激しく咬む癖があります その時 腫瘍から離れたガン細胞が 唾液に混入するのだと思います 咬んだ時に 生きたガン細胞が別の個体に いわば移植され 腫瘍が生き続けるのです このタスマニアデビルのガンは 究極のガンかもしれません 発生した体内にとどまるという 制限がありません 動物集団内に広がり 免疫システムを逃れる 突然変異を起こし 私達の知る限り 種を全滅させ得る唯一のガンです

しかし タスマニアデビル以外の動物 例えば ヒトに なぜこの現象が 見られなかったのでしょうか? 実は既に起こっているのです これはケニアのムンバサの 家族が飼っている犬 キンボです 昨年 陰部から 出血していることに 飼い主が気づきました 獣医に連れて行くと ひどいものが見つかりました 血を見るのがいやな人は 目をそらしてください キンボのペニスの付け根には 出血している 巨大な腫瘍があったのです 獣医の診断では 性交を介して感染する 犬に特有のガンということでした このガンも タスマニアデビルの事例のように 生きたガン細胞の伝播で 伝染するものです

驚くべきはこのガンが 世界中に広まったことです 実際にキンボが感染したのと 同じガン細胞が ニューヨーク市や ヒマラヤ山脈の山村部や オーストラリアの奥地にいる犬にも 見つかっているのです 大昔から存在しているのでしょう 遺伝子プロファイリングによると このガンは 何万年も前から 存在しており ネアンデルタール人の時代の オオカミの細胞から 発症した可能性もあります 発症した可能性もあります 驚くべきことです 知りうる限り哺乳類から派生した 最古の生命体です まさに現代に生きる 化石なのです

動物に見られたように ガンは人間の間でも 伝染するのでしょうか? この疑問に大きな関心を 寄せたのが1950年代の 腫瘍学者 チェスター・サザムでした 彼は他人のガンを 植え付けるという実験を 行うことにしました これは1957年 オハイオ州刑務所の 囚人であった志願者に サザム医師が ガンを注射している写真です この実験で 注射した細胞が ガンにまで発展した人は わずかに数えるのみでした これら少数の人々は すでに何らかの病気にかかっており 免疫系に障害があったのでしょう

この実験からわかるのは 倫理的問題は さておいて (笑) 人間同士でのガンの受け渡しは 非常に珍しいということです しかしある条件下では 起こりえます このことは これから 腫瘍学者や疫学者に 考慮してほしいことです

最後に ガン細胞の分裂能力と 環境適応能力からして ガンが発生するのを 避けることはできません だからといってガンに 屈服する必要はないのです 実際 ガンの成長を促進する 複雑な進化の過程を解析することで ガンは克服することが できると思っています 私個人の目標は このタスマニアデビルのガンに 打ち勝つことです タスマニアデビルが ガンで絶滅する最初の動物になるのを 私達の手で防ぎましょう

ありがとうございました

(拍手)