スザンヌ・シマード

森で交わされる木々の会話

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Translated by Reiko Bovee
Reviewed by Yuko Yoshida
0:11

森の中を歩いていると 想像してみてください 木々の集合体が 頭に浮かんでくるでしょう 我々 森の管理人たちが 「林分」と呼ぶその集合体は 木々の粗い幹と美しい林冠から なっています 樹木は確かに森林の基盤ですが 森林は見えているものが 全てではないのです 今日 私は皆さんの森林観を 変えたいと思います 地下には もう1つの世界— 延々と経路が張り巡らされた 生物学的世界が 木々を繋げ互いに交流させ 森を あたかも1つの生き物のようにしていて それは知的動物さえをも思わせます

0:52

こんな事を どうして知ったのか その経緯をお話しします 私はブリティッシュ・コロンビアの 森の中で育ちました 森の中で仰向けに寝転がり 林冠を見上げていたものでした 壮観な眺めでした 私の祖父も大きな人でした 木こりで 内陸部の雨林で杉の木を 択伐して馬で運び出していました 祖父は私に森が密やかに1つに繋がり その中に私の家族がどのように 編み込まれているか教えてくれました そして私は祖父の志を継いでいます

1:22

祖父も私も 森に対する好奇心を 持っていました 最初に私の森に対する目が 大きく開かれたのは 湖畔の屋外トイレでの出来事ででした 家族の犬のジグスがその穴に 滑って落ちた時のことです 祖父はシャベルを片手に駆けつけ ジグスを助け出そうとしました 可哀想なジグスは 糞尿の中で泳いでいました 祖父が地面を掘ったその時 そこに現れた根に 私はとても興味を覚えました その下には のちに私が知ることになる 白菌糸体があり さらに その下には 赤や黄色の鉱物の層がありました 最終的には祖父と私は ジグスを助け出しましたが その時 私は気付いたのです 木の根と土壌が一緒になった層が 森林の本当の土台になっているのだと

2:05

私はもっと知りたいと思い 林学を勉強しましたが 気付けば 商業伐採を 管理している有力者の側で 仕事をしていました 森林皆伐はもはや警戒レベルでした そんな仕事の中で 私には葛藤がありました それだけでなくアスペンやカバノキは 除伐や薬剤で取り除かれ その場所に もっと商業的に価値のある マツやモミの木を植えるのには 驚きました この容赦ない産業機構の歯車は 何ものも止められないかのようでした

2:40

それで私は大学に戻り 森の隠れた分野の研究を始めました その頃 研究室での実験で マツの幼根同士が 炭素を送り合えると 分かったばかりでした これは研究室でのことですが 森林でも起きているのだろうか きっとそうだと また木々は地下で情報も交換し合っている かもしれないとも思いました でもそんな理論はあまりにも問題があり ばかな話だと思う人もいて 研究費が なかなか下りませんでした それでも 私は諦めず 森の奥深くに入り 実験をするに至ったのです それは25年前のことです 3種の樹木から80株の子苗を育てました アメリカシラカバ ダグラスモミ、ベイスギです シラカバとモミは地下網で繋がっていても スギはそうではなく 自分だけの世界にいると 私は予想していました そこで 私は自分の機器を掻き集め お金がなかったので 倹約するため ホームセンターの カナディアン・タイヤに行き

3:46

(笑)

3:47

ポリ袋、ガムテープ、ブラインド・クロス タイマー、使い捨て上着 ガスマスクを買いました それから 大学からハイテク機器— ガイガーカウンタ、シンチレーション検出器 質量分析計、顕微鏡を借り そして とても危険な物を用意しました 炭素14、放射性同位体の 炭酸ガスが一杯の注射器と 高圧ボンベです ボンベには炭素13、安定同位体の 炭酸ガスが入っています ちゃんと許可はもらっていましたよ

4:18

(笑)

4:19

でも大事なものを忘れてしまいました 虫除けのスプレーと 熊除けスプレーと ガスマスクのフィルター あーあ

4:30

実験の第一日目 予定の場所に行くと 子連のハイイログマに 追い払われてしまいました 熊除けのスプレーを 持っていなかったからです カナダの森での研究は こんな宿命にあります

4:43

(笑)

4:44

その翌日戻ってみると 母熊と子熊は もういませんでした 今度こそ ちゃんと研究を始めます 紙の使い捨て上着を着て ガスマスクをつけ それから ポリ袋を苗木にかぶせ 巨大注射器を取り出し ポリ袋に 炭素同位体トレーサーの 炭酸ガスをまず最初に カバノキに注入しました 放射性ガス 炭素14を カバノキの苗木にかぶせた袋に注入し 次はモミの木に 炭素同位体 炭素13の 炭酸ガスを注入しました 同位体は2種類使いました これら3種の木々の間で お互いに交流し合っているのか 調べたかったからです 80番目の最後の袋に 取りかかろうとした所 突然ハイイログマの母親が再び現れ 私を追ってきました 私は注射器を頭上に持ち上げ 蚊を追い払いながら トラックに飛び乗り 思いましたよ 「だから みんな研究室で 研究するんだ」ってね

5:45

(笑)

5:48

1時間待ちました これ位の時間があれば 木は光合成から二酸化炭素を生成し それを糖に変えて根に送り そして 恐らく 地下で近くの木々に炭素を 送っているだろうと推測したのです 1時間して トラックの窓を開け 母熊がいないか確かめると・・・ 良かった!向こうの方で ハックルベリーを食べていました それでトラックを降りて 仕事に再び取りかかりました 最初のカバノキの袋を外し ガイガーカウンタを カバノキの葉に当てると シューーー! 上出来 カバノキは放射性ガスを 吸い込んでいました 審判の時が来ました モミの苗木まで行き 袋をとり ガイガーカウンタを モミの木の葉に近づけると 世にも美しい音を聞いたのです シューーー! カバノキがモミの木に 「お手伝いしましょうか?」と話しかけ モミの木がこう答えています 「少し炭素を分けてもらえませんか? 誰かが私の上に布を被せて 日陰になっているんです」 私はスギに近づきガイガーカウンタを その葉の上にかざしました すると予想通り 反応無し スギは自分だけの世界に居て カバノキとモミの木との会話網には 繋がっていないのです

7:10

私は興奮して 次から次に80ヶ所全部 植樹した苗を調べて回りました この結果 明らかに 炭素13と炭素14で アメリカシラカバとダグラスモミの 活発な交流が証明されたのです この実験をした その年の夏には カバノキは モミの木からもらう量より 多くの炭素をモミの木に送っていました 特にモミの木が 陰になっている時はそうでした それから後の実験で その反対もあることが分かりました モミの木はカバノキからもらう量より 多くの炭素をカバノキに与えていました 葉を落としていたカバノキのそばで モミの木がまだ成長していた時です この様にこの2種の樹木は 相互依存の関係にあると検証されました 陰と陽のようにです

7:51

その時点で 全てが明らかとなり 私はこれは大きな発見だと分かっていました 森の樹木の相互関係に対する それまでの見方を変える大発見— 木々は競い合っているだけではなく 協力し合っているのだという 確固たる証拠— 壮大なる地下の交流ネットワークという 知られざる世界の証拠を見つけたのです

8:14

この時 私が心から願い 信じてやまなかったのは この発見で林業のあり方が変わること― 皆伐や薬剤で樹木を枯らす方法から もっと包括的で持続可能 実用的でもっと低コストな方法に 変わることです 私は何を考えていたのでしょう? そのことは後でお話しします

8:34

森林のような複雑な構造を 科学でどうすれば良いのでしょう? 森林の科学者ですから 森林で研究をしなくてはなりません それは お話しした通り本当に大変です 熊からうまく逃げ切らなくてはなりませんが なによりも いかなる困難が立ちはだかろうと屈せず 直観と経験を頼りに 意義のある疑問を持ち データを集め 検証しなければなりません 私は 森で何百もの実験を行い それを発表してきました その中でも最も古い実験農園は 30年以上前に作られたものです 今も確認できます そうやって森の科学者は研究しています

9:17

では科学についてお話ししたいと思います アメリカシラカバとダグラスモミは どう交流していたのでしょう? 彼らは 炭素という言葉で 会話していただけでなく 窒素やリンや水 情報としての防御信号、 アレル化学物質、ホルモンという言葉で 会話をしていました 実は 私の発見以前にも 科学者の間では 地下における「菌根」という 共生関係がこれに関わっていると 考えられていました 菌根とは文字通り「菌の根」です 森林を歩くと樹木の生殖器官が見られます キノコがそうです でもキノコは ほんの一部に過ぎません キノコの柄からは 菌糸が延び 菌糸体を形成しています その菌糸体は 樹木を含む全ての植物の根に 着生し繁殖します 真菌細胞が根の細胞と交わると 栄養分と炭素との交換が行われます 菌根菌は 土壌内で広がり 土の粒子1粒1粒を包み込み そこから栄養分を吸収します 菌糸体はぎっしりと張り巡らされており 我々が一歩踏み出すその下には 何百キロの菌糸体があることでしょう 菌糸体はさらに 同種の樹木間だけでなく カバノキやモミの木など 異なる樹種間も繋ぎ インターネットのような働きをしています

10:40

ほかのネットワークと同様 菌根ネットワークにも ノードやリンクがあります 我々が作成したこの地図は ダグラスモミの森の一角にある 全ての木と菌根菌のDNAの短配列を 1つ1つ調べて作成されたものです この絵の丸はダグラスモミのノードです 線は菌根菌で繋がっているリンクです

11:04

最も大きな濃い色のノードは 一番頻繁に活動している木です 我々は これらをハブとなる「ハブ木」 もっと愛情を込めて 「母なる木」と呼んでいます なぜなら こういうハブ木は 低木層の若い木々の 世話をしているからです 黄色い丸が見えると思いますが それは 古い母なる木のネットワーク内で 根付いた実生苗です 1つの森の中で 1つの母なる木が 何百もの木と繋がっていることもあります 同位体トレーサで調査したところ 母なる木が 菌根ネットワークを通して 余分の炭素を 低木層の苗に与え 苗の生存率を4倍にしていることが 分かりました

11:46

誰でも自分の子供は可愛いものです ダグラスモミも自分の子供を 認識できるのでしょうか? 母熊が自分の子熊が分かるように それで ある実験をしました 母なる木の元で その苗木と 他の木からの苗木を一緒に育てました すると母なる木は自分の子供を 確かに認識するのです 母なる木は自分の子供たちを 自分の庇護下に置き 菌根ネットワークを拡げ 自分の子供たちには 地下でもっと炭素を送ります また自分の根が広がりすぎないようにして 子供たちが根を伸ばせる場所を作ります 母なる木が傷ついたり死にかけると 次の世代に生きる知恵を受け渡します 同位体トレーサで突き止められたことは 炭素は 傷ついた母なる木から 幹を通り 菌根ネットワークに そして周りの若い木々にと 防御信号と共に 送られているということでした そしてこれら2つの組み合わせで 若木が これから受ける ストレスに対する耐性が強化されるのです そうです 木々は話すのです

12:49

(拍手)

12:51

ありがとうございます

12:56

木々は会話を交わし合いながら 自分たちのコミュニティ全体の耐性を 強化しています それは我々の社会共同体や 家族を思わせます そうでない家族もありますが

13:08

(笑)

13:10

本題に戻りましょう 森は ただの木の集合体というだけでなく ハブとネットワークを備えた 複雑なシステムです その中の幾重にもなる繫がりが 木々を繋げ 互いに交流させ それが情報交換や環境適応の手段となり 森の再生能力を高めています それは多くのハブ木があり ネットワークも重なり合っているからです しかし森はとても傷つき易いものです 自然の災い— 例えば古い大木を好んで攻撃する キクイムシだけでなく 大木を狙った択伐や 皆伐からも痛手を受けます ハブ木 1、2本くらい と思うかも知れませんが それだけ無くなっても 森は元に戻れなくなってしまいます ハブ木は 飛行機の部品 リベットとは違います リベットの1つや2つが外れたとしても 飛行機は飛べますが 命取りになるのが外れたり 翼を止めていたリベットが取れると 機体のシステムは崩壊してしまいます

14:06

さあ 森に対する見方は変わりましたか?

14:08

(観衆)はい

14:10

いいですね 嬉しいです

14:13

先程 私の研究での発見で 林業のあり方が変わればいいと 私が言ったことを思い出して下さい そうなっているか ここ カナダ西部の 30年後の今を調べてみたいと思います

14:33

ここから約百キロ西に行った バンフ国立公園の境界にある森です 皆伐された所が多く あまり自然が残っていません 2014年に世界資源研究所は 過去10年間でカナダは 世界で最も森林破壊が進んだ国だ という報告書を出しています きっとブラジルだと思われていたでしょう カナダの森林破壊率は年に3.6%です 私の推定では それは 再生可能な伐採率の約4倍です

15:08

このような大規模な破壊は 水循環に悪影響を及ぼし 野生動物の生息環境を乱し 大気中に温室効果ガスを放出させる ということが分かっています これは樹木に取って打撃となり 立ち枯れが増えてしまいます

15:22

それだけでなく特定の1、2種だけを植え アスペンやカバノキを除伐し続けることで 森が単純化され 多様性がなくなり 樹木は感染や害虫に対する 耐性を失ってしまいます 気候変動が進むにつれ あらゆる厄災が 非常事態を起こしています その極端事象の例として アメリカマツノキクイムシの大量発生が 北米で広がったことや この数ヶ月間にアルバータ州で起きた 大規模な山火事があります

15:51

最後の質問に移りたいと思います 森林を弱体化させないで 気候変動に立ち向かえるよう どう森林を強化できるでしょうか? 複雑なシステムである森林が素晴らしいのは その限りない自己回復力です 最近の我々の実験で 一部皆伐により ハブ木を残し 多様な樹種、遺伝子、遺伝子型の 再生を維持することで 菌根ネットワークが 実に早く回復するとわかりました これを念頭に置き 4つの簡単な解決法を提案します 行動に移すにはあまりに複雑すぎる という言い訳は通りません

16:34

まずは みなさん 森に行かなくてはなりません 地域と森林との関わりを 再び取り戻すべきです ほとんどの森は現在 一律の やり方で管理されていますが うまく森林を管理するには 地域の状況を知る必要があります

16:53

第二に 原生林を残さなくてはなりません 原生林は 遺伝子、母なる木 菌根ネットワークの宝庫だからです それには伐採を減らすべきですが 伐採禁止でなく控えめにという意味です

17:10

第三に 伐採をする時は 太古から受け継がれて来た自然 母なる木 菌根ネットワーク 木々 遺伝子などを 保持する必要があります そうして 母なる木の知恵が 次世代の樹木に受け渡され 若木が これから直面する障害に 対抗できるようにするのです 我々は自然保護に 真剣に取り組むべきです

17:30

第四番目 最後に 我々の森を 種や遺伝子型や構造の 多様性が備わった森に 再生させるのです 植樹したり 自然回復させたりして 再生しなければなりません 自然が必要とする 道具を用意してあげ 自らの力で回復させるのです 森林では 木々は ただ生存競争しているだけではなく 素晴らしく協力し合っているのです

17:57

私の犬ジグスはというと ジグスは屋外トイレに落ちて 私をこの隠れた世界に導いてくれ 私の森林観を変えてくれました 皆様の森林観もこの私のトークで 変わったことを願っています

18:09

ありがとうございました

18:11

(拍手)

「森は見えているものが全てではない」と言う生態学者のスザンヌ・シマードは、カナダの森での30年間に渡る研究で、木々はお互いに会話をしているという驚くべき発見をしました。それも、かなりの距離を隔ててでも、しばしば会話をしていたのです。調和のとれた、それでいて複雑な木々の社会生活についての話をお聴き下さい。きっと自然を見る目が一変しますよ。

About the speaker
Suzanne Simard · Forest ecologist

Suzanne Simard studies the complex, symbiotic networks in our forests.

Suzanne Simard studies the complex, symbiotic networks in our forests.