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我々は驚くべき時代に生きています ゲノミクスの時代です ゲノムとは ヒトの DNA の全配列のこと あなたの配列は私のと 少し違っています だから 外見が違うのです 私の目は茶色ですが 青や灰色の目をした方もいます 外見だけのことではなくて 報道でみかけるように 遺伝子は 恐ろしい病気の原因になったり 個性を形づくったり 精神疾患の原因になったりします 遺伝子には 運命を左右する力があるようです しかし 私はこう考えたいのです 「私は 遺伝子を超える存在です」 みなさんはどうお考えですか? みなさんは遺伝子を超える存在ですか? (会場: そうだ) そうですか? 同じ意見の方もいたようです ではここではっきりさせておきましょう みんなで声を揃えて言いましょう 「私は遺伝子を超える存在です」 ― ご一緒に 「私は遺伝子を超える存在です」 (喝采) 私は何者でしょうか? (笑) 私はコネクトームです みなさん、本当に素敵な人たちなので これも私に合わせて言ってもらえますか? (笑) いいですか ご一緒に 「私はコネクトームです」 素晴らしかったです コネクトームが何か知らなくても 優しいみなさんは合わせてくれました 今日の話はお終いにしましょうか?

さて これまで確認できたコネクトームは1種です この小さな虫のものです 小さな神経系はたった300個の ニューロンでできています 70年代から80年代にかけて 科学者グループが ニューロンの間の全部で7000の 接合をマップにしました この図では全ての節点がニューロンで 全ての直線が接合です これがC.エレガンス線虫の コネクトームです みなさんのコネクトームはこれよりもはるかに複雑です 皆さんの脳には1000億個の ニューロンが含まれているからです そしてその1万倍の接合があります 皆さんの脳にもこういう構造がありますが 1枚の画面に収めることはできません コネクトームの接合の数は ゲノムの文字数の100万倍 すごい量の情報です

どんな情報なんでしょうか? 確かなことは不明ですが理論はあります 19世紀以来 神経科学者たちは あなたの記憶は― あなたであるための情報である 記憶は―ニューロン間の接合として 蓄積されると想定してきました さらにひとりのヒトとして別の切り口である 性格や知性もおそらく ニューロンの接合という形式で 符号化されているのでしょう ご提案した仮説の意味がわかりましたね 私は自分のコネクトームである 声にしてもらったのは 真理だからではなく 覚えておいて欲しかったからです 実際 この仮説が正しいかどうかはわかりません これを確かめるにはテクノロジーが 不足しているのです 線虫のコネクトームを解明するだけでも 10年以上かかる厄介な作業でした 我々の脳のようなコネクトームを解き明かすには 洗練された技術を自動化して コネクトームを特定する作業を高速化しなければなりません ではこれからの時間で そのための技術を紹介します 私の研究室と共同研究先とで 開発中の技術です

ニューロンの写真をご覧になったことはありますか? この素晴らしく特徴的な形で すぐにニューロンだとわかります 長く伸びて細かく枝分かれしています 簡単にいえば 樹木のように見えます そしてこれは単一のニューロンにすぎないのです コネクトームを見出すためには 一度に全てのニューロンを見なければなりません ボビー・カストリを紹介します ハーバード大学のジェフ・リヒトマン研究室の 研究者です ボビーは驚くほど薄切りにした マウスの脳の試料を手にしています 10万倍までズームインして 拡大すると ニューロンの枝分かれが全部見えるスケールになります まだそれが見えないのは 3次元の構造が相手だからです

そこで薄切りの写真をたくさん撮影して 積み重ねると 3次元のイメージを作れます でも枝分かれはわかりませんね そこで上から順に 断面図の中で1個のニューロンを赤く塗って 次も赤く塗って 次も同じように 一枚一枚について この作業を続けて 端から端まで終わったときに 三次元の形状を再構成できるのです ニューロンの枝分かれの一部分の形状です 同じ事を緑のニューロンについても行います 緑のニューロンが2箇所で赤に触れているのが わかります この接点をシナプスと呼びます

ひとつのシナプスに注目してみましょう 緑のニューロンの内側を見ると 小さな丸いものがありますね シナプス小胞というものです 中に神経伝達物質が入っていて 緑のニューロンが情報を伝えたいときに 赤のニューロンに伝えたいことがあるときに 神経伝達物質を放出します シナプスで ふたつのニューロンが 接合しているのです 電話で話している友達同士のようです

シナプスの探し方がわかりましたね コネクトームの全体像はどうやって調べましょうか このイメージを積み重ねた3次元ブロックは 巨大な塗り絵の本なのです ニューロンごとに違う色をつけたら イメージ全体を見渡すと シナプスを探し シナプスに関わる二つのニューロンの色をメモします この作業をイメージ全体で行えば コネクトームを明らかにできます

ここまでで ニューロンとシナプスの基礎がわかりました それでは神経科学における重要な問題を 考える準備が整いました 男性の脳と女性の脳はどう違うのでしょうか? (笑) この入門書に書いてあります 男性の脳はワッフルのように 小さな区画で人生が整理されています 女性の脳はスパゲッティのように あらゆる物事がお互いにつながっています (笑) みんな笑っていますけど この本は 私の人生を変えたんですよ (笑) まじめな話 どこが変ですか? お話ししたことからわかるはずです どこが間違いでしょう 男女の性別に関係なく ヒトの頭脳はスパゲッティみたいなのです もう少し言えば 枝分かれした極細のカペッリーニ麺です スパゲッティの一本が 皿の中の多くのスパゲッティと絡み合うように 一本のニューロンは多くのニューロンに触れて 枝はもつれ合っています ひとつのニューロンが非常に多くのニューロンと 接合できるのは 接点ごとに シナプスを作ることができるからです ここまで話してくると この脳細胞のブロックが どれほど小さいものか忘れてしまったかもしれません

比較してわかるようにしましょう このブロックは一辺6ミクロンと大変小さいものです ニューロン全体と比べてみましょう このブロックの中には枝分かれした一番細かい 構造の一部だけが入っています ニューロンはもちろん脳よりも小さく しかもこれはマウスの脳です ヒトの脳に比べるとはるかに小さいのです これを友人に見せると こんなことを言われます あきらめた方がいいんじゃない? 脳神経科学は手に負えない 脳を肉眼で眺めても どれほど複雑なのかもわかりません でも顕微鏡を使うことで とうとう隠された複雑さが明らかになりました

17世紀には 数学者で哲学者であったブレーズ・パスカルが 無限というものを恐ろしく感じると 記しています 果てしなく広がる外界について考えると無力感を覚えると そして科学者として 私は自分の気持ちは話さないことになっています そこには立ち入りません (笑) でもいいですか? (笑) (拍手) 気になるのです 不思議に思うのです 時に絶望的な気分になることもあります なぜ すさまじく複雑な 無限と言ってもよいようなこの器官を 研究することを選んだのでしょうか ばかげた話です 脳のことが理解できるなどと 考えることすらありえない

なのにドンキホーテのようにこだわり 最近は新たな望みを抱くようになりました いつの日か 顕微鏡をいくつもいくつも並べて 全てのニューロンとシナプスを捉えた 巨大なイメージデータベースを作り 人の手に頼らず画像解析するのです 人工知能のスーパーコンピューターが コネクトームの解析を行うのです 生きているうちにそれができたらいいと思っています ヒトのコネクトームを解き明かすことは これまでにない最大の挑戦です 何世代もの研究を継続しなければならないでしょう 目下 私のチームでは もっと控えめな目標として マウスやヒトの脳のごく一部から コネクトームの一部を解明しようとしています でもこれだけでも仮説検証の最初のステップです 私はコネクトームである という仮説です では これがどれほど妥当なのか説明しましょう 真剣に取り組む価値があるということを

子どもから成長して 大人として年を重ね みなさんの個性はゆっくりと変化します 同様にコネクトームもまた 時の経過とともに変化します どんな種類の変化が生じるのでしょうか ニューロンは樹木のように 新しい枝を伸ばしたり 古い枝を落としたりできます シナプスを形成することが可能で それを消去することもできます シナプスは成長させることも 縮小させることもできるのです 次の疑問です こんな変化の原因は何か? ある程度は遺伝子に プログラムされているものです でもそれだけが全てではありません そこに信号が―電気信号が ニューロンの枝に沿って流れ 化学的信号が 枝と枝とをつないでいるのです これらの信号のことを神経活動と呼びます 神経活動の中に我々の思考や感情や 認知や精神的な経験が 符号化されているという証拠が たくさんあります さらに 神経活動によって生じる 神経接続の変化についての証拠も多いので この二つの事実を合わせると 皆さんの経験がコネクトームを 変化させるということがわかります だからこそ 全てのコネクトームは独特です 遺伝的に同じ双子であっても独特です コネクトームは遺伝と環境との接点ともいえます 考えるという行為だけでも コネクトームを変えることができるというのは 本当でしょう 心強い話ではありませんか

さてこれは何の写真でしょう さわやかな清水の流れ ですね 他に何が写っていますか? 地球に刻まれた溝である 川底があるのです 川底がなければ 水の流れは定まりません この流れを使って よいたとえ話ができるのです 神経活動と神経の接続との関係を 説明するたとえ話です 常に変動する神経活動は 留まることのない水の流れのようです 脳の神経ネットワークの 接続は 神経活動の伝わっていく経路を 定めるものですから コネクトームはこの川底のようなもの このメタファーには続きがあります つまり 川底の溝が水の流れを 定めているだけでなく 長い時間スケールで見ると 流れる水が川底を作り変えます 先ほど述べたように 神経活動はコネクトームを変化させます メタファーのレベルでの お話をさせてもらうなら 神経活動が 思考や感情や認知の物理的本質であると― 神経科学者たちは考えていますので これを意識の流れと 呼ぶこともできるのです 神経活動は流れる水であり コネクトームはその流れの川底です

メタファーはここまでにして 科学のレベルに戻りましょう コネクトームを解析する技術が 機能するようになったとしたら 仮説を検証するにはどうすればいいでしょう 「私はコネクトームである」という仮説です 直接的な検証法を提案します コネクトームから 記憶を読み出すことを考えましょう 長い時系列の動作の記憶を 考えてください 例えばベートーベンのソナタを演奏するピアニストを 19世紀にさかのぼる理論によれば このような記憶は 脳内のシナプス接合の連鎖として蓄積されます なぜなら 連鎖の最初のニューロンが活性化すると シナプスを通して次のニューロンを刺激し これを活性化させて これを繰り返し ドミノ倒しのように進んでいきます ニューロンの活性化の連鎖が こんな連続動作の神経的基礎だという 仮説があるのです

この理論を検証する方法として この種の連鎖を コネクトームの中から探すのです 簡単なことではありません こんな形ではなくて たぶんこんなもつれた形です コンピュータを使って 鎖を解きほぐさなければならないでしょう これができれば 解読して得られた一連のニューロンから 神経活動のパターンを予測することができます 記憶を呼び起こすと そのパターンが再生されるはずです これがうまく行けば コネクトームから記憶を読み出した最初のケースとなるでしょう

(笑)

ごちゃごちゃです こんなふうに複雑なシステムの配線を したことはありますか? やりたくないですね 経験のある人にはわかりますが 間違えやすいものです ニューロンの枝分かれは脳の配線のようなものです 問題です 脳の配線の全長はどれほどでしょうか? ヒントです かなり長いです (笑) 推測ですが数100万マイルです 頭蓋の中に詰め込まれています この数字を考えると すぐわかることですが 脳の配線に間違いのある可能性は大きいのです 大衆雑誌が好む見出しは 「配線の間違いで拒食症に」とか 「配線の間違いで自閉症に」というものです もっともらしく聞こえますが ほんとうのところは まだ脳の配線はきちんと見えていないので 真偽のほどは定かではありません コネクトームを明らかにする技術ができれば 脳の配線間違いを読み取ったり コネクトームから精神疾患を見つけたり できるようになるかもしれません

仮説の検証に最も適した方法は そこから導かれるもっとも極端な結果を考えることです このやり方は哲学者がよく使います 「私はコネクトームである」と信じる人は 死とは自分のコネクトームの 崩壊であるという考えを 受け入れなければなりません こう申し上げた理由は 今日の予言の中には 技術が根本的なレベルでヒトを変化させ 人類そのものを変質させるという 予言があるからです そんな人たちの夢として 人体冷凍として知られる技術で 死を回避する試みがあります 10万ドルを支払うと 死後に死体を冷凍して アリゾナの倉庫にある 液体窒素タンクの中で保存してもらい 将来の文明が十分進んだら 復活させてもらおうというのです

現代的な方法で不死を求める人々を 愚か者とよぶべきでしょうか? あるいは彼らはいつの日か 我々の墓の上で笑うことになるでしょうか わかりません 彼らの信念について科学的な検証を試みたいと思います 冷凍した脳のコネクトームを見いだすよう 試みることを提案します 死後 冷凍している途中にも 脳にはダメージが加わることがわかっています 問題は このダメージでコネクトームが消えてしまうのかどうか 消えてしまうなら将来の文明をもってしても 凍った頭脳から記憶を回復することはできないでしょう 肉体の復活を遂げたとしても 心はよみがえりません 他方もし コネクトームが維持されていれば 人体冷凍は馬鹿にしたものでもありません

非常に小さい世界の探求からスタートして 遥か将来の世界につながる探求について 説明してきました コネクトームは人類の歴史上の転換点となることでしょう 我々がアフリカのサバンナで サルと似た祖先から進化したときに 特徴は大きな脳でした その脳を使って 素晴らしい技術を次々と作ってきました いずれは 技術が強力になって 自分達のことを知るために 脳を要素分解して再構成することが できるようになるでしょう この自己発見の旅路は 科学者だけのものではなく 人類皆のものであると信じます その旅について皆さんとお話できたことを感謝しています

ありがとう

(拍手)