ニール・バージェス
1,518,302 views • 9:03

やたらに広い駐車場で 車を停めた場所をどうやって覚えますか? ホーマーさんに考えてもらいましょう そして彼の脳で行われていることを 理解してみましょう

まず 黄色で示した「海馬」 ここは記憶を司る器官です アルツハイマー病などで障害されると 駐車した場所が覚えられなくなります なお 語源は形が似ている 「タツノオトシゴ」のラテン名です 海馬は神経細胞でできています

人間の脳には 千億もの神経細胞があり それらの連絡は 微弱な電気パルスやスパイク信号を 送り合うことで行われています 海馬には二つの細胞層があり それらは密につながっています 近年 マウスやラットが 飼育ケージでえさを探している間の 神経細胞の活動を記録することで 「空間の記憶」の仕組みが 解明され始めました

いま仮に ラットの海馬にある 1個の神経細胞を記録中とします 細胞が1つの電気信号を発すると 赤い点ができると共に プツッと音がします ご覧の通り この細胞はラットが 特定の場所に行ったときだけ活動します そして脳の他の部分に 電気信号を送るのです ラットの居場所に応じて 発火の頻度を示すことができます こうして多くの細胞を記録していくと ラットが移動した場所ごとに 別々の細胞が活動していることが わかりました こうして神経細胞は地図を作って 脳全体に 「いま自分がどこにいるか」を 知らせ続けているのです

この「場所細胞」は人間にも見つかっています てんかんの患者が 定期的に脳の検査をするとき 小さな街をドライブするゲームを したことがありました 街の特定の場所をドライブすると 海馬の「場所細胞」が活性化し 電気信号を送り始めるのです

ではどのように場所細胞は 環境の中の位置を知るのでしょうか この2つの細胞は 環境における「境界」が 重要な事を示しています 上の細胞は ラットが箱の壁の中央に いる時に興奮するようです 箱が大きくなれば 発火の範囲も広くなります 下の細胞は南側の壁に近い時に 興奮するようです ですから箱の中に新しく壁を作ると 動物が箱の中を歩きまわったとき 壁が南側にあるときに限って その細胞が興奮するのです このことは あなたの周りの建物などの 距離や方向を感じ取ることが 海馬にとって非常に重要なことを示します 実際に 海馬の入力領域に ラットやマウスが歩きまわる際に 正確に境界や縁への 距離や方向を感知して 海馬に伝える細胞が 発見されています

左側の細胞は 実験動物が東側の境界や壁に 近づいた時に反応します それが何かの縁や 四角い箱の壁であっても 丸い箱の曲がった壁であったとしても テーブルの縁であったとしてもです そして右側の細胞は 南側の境界があるときに反応します それが壁やテーブルの縁であっても 離れたテーブルの隙間だったとしてもです これこそが「場所細胞」が 自分の位置を知る一つの手段と考えられます

目的物の場所を判断するテストもしました 単純な場所の どこに旗があるか? 要は駐車場の車の位置みたいなものです まず 実験する場所を探索してもらい 覚えるべき場所を見てもらいます 少し後に もういちど同じ場所に戻ると 大体の人は 旗や車がどこにあったか かなり正確に示すことができます では こんどの実験では 部屋の形や大きさを 場所細胞の実験の時のように 最初に見たものと変えてしまいます

この場合でも 私たちは 環境の形や大きさの変化させたとき 旗があったと思う場所が どのように変化するか分かるのです いいですか 例えば 小さな四角形のX印部分に旗があるとします そして 旗がどこにあるのか尋ねます ここで 四角形をもっと大きくすると 彼らの考える旗の位置が 場所細胞の活性化領域が拡がるのと 同様に拡大するのです つまり どこに旗があるかの記憶は その場所における 場所細胞の活性化パターンの記憶により 行われているようです だから 少し後にその場所に戻ると 記憶したパターンと 現在の場所細胞の活性化パターンを 最もよくマッチさせるように動き回り 覚えようと思った場所に 戻ってくることができるのです

一方 動くことで位置を知ることもできます 駐車場を出る時 駐車して ちょっと外れて歩きますよね? 私たちは 動き回れば 後で戻るのに およそどの方向へ向かえば良いか 統合できると知っています 場所細胞は このような進路統合信号を 「グリッド(格子)細胞」から得ています

グリッド細胞とは 海馬の入力部分にある細胞で 場所細胞と似た性質があります しかし ラットがあちこち動き回るときの あるグリッド細胞の働きを調べてみると 周囲の環境に敷かれた 驚くほど規則性の高い 三角形の格子上の別々の場所で 活性化することが分かります いくつかのグリッド細胞を記録してみると ここに 異なる色で示していますが それぞれの細胞が持つ 格子状の活性化パターンは 環境全体に広がっていて かつ 少しずつ ずれていることがわかります 赤の細胞は このような格子で 緑はこう 青はこのように活性化します

まとめると ラットは 空間上に 仮想のグリッドを 置いているようです 要は 地図にある経線や緯線のようなものです 三角形ですけどね ラットがあちこち動き回るとき 1つの細胞から別の細胞へと 電気活動が受け継がれていくことで 現在位置が把握されます だから 自分の動きを利用して 今どこにいるかを知ることができるのです

人間もそうなのか? まず 全ての格子状のパターンには 共通の対称軸があり オレンジで示したような方向性があります つまり 私たちが 6つの方向のどれかに向かっている場合と その中間の方向に向かう場合で 脳の特定の場所にあるグリッド細胞の 電気活動の総量は変わるはずです そこで何人かにMRIスキャナーに 入ってもらい 先ほどお見せしたような ゲームをやってもらって この信号を探しました すると 脳の「嗅内皮質」の中に 見つかりました ラットのグリッド細胞がある部分と 同じ場所です

では再びホーマーさん 彼は どこに車を停めたかを まわりの建物や壁からの 距離や方角という情報から 覚えているのでしょう それは「境界」を検知する細胞に よって表現されます また 彼は駐車場から出た道を覚えていますが それはグリッド細胞によって表現されます これらの二つの細胞は 場所細胞を活性化させます そして彼は戻ってくるときに 場所細胞が記録したパターンに 最も合致した場所に移動することで 車を停めた場所に 戻ってくることができるのです そしてホーマーさんは 車という 視覚的手がかりと無関係に その場所に導かれてしまいました きっと車は 牽引されてしまったのでしょう しかし彼はどこにあったかを覚えていて たどり着けます

さて 空間的な記憶だけでなく 脳全体にわたって格子状の活性化パターンを 示す領域を探してみると たとえば最後に行った結婚式を思い出すような 「自伝的記憶」に関する作業を行うときに いつでも活性化される多くの場所で 格子状の活性パターンが見られました つまり 空間を認知するための仕組みは 視覚的なイメージを 生み出すためも使われているのかもしれません だから私たちは 過去の出来事を 思い出そうとする時 その空間としての場面を 再現できるのです

もしこれが本当なら あなたの記憶は この密な相互作用によって 場所細胞が互いに活性化しあい そして 境界細胞が活性化し あなたの視点の周りの空間を構築することで 始まっているのかもしれません そしてグリッド細胞は 視点を変えてくれます まだ言及していない「頭部方向細胞」は どの方向に顔を向けているかによって コンパスのように活性化します それらはあなたが創造したい 視覚的イメージに合わせて 見る方向を決めます こうして 結婚式場で起きたことを 思い出せるのです

以上のことは 脳を構成する 何十億もの神経細胞の活動をもとに 私たちが どのように記憶し 想像し 考えるかなどの 心理学的過程を理解し始めた 新たな時代の認知神経科学の 一例にしか過ぎません

ありがとうございました

(拍手)