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Translated by Haruo Nishinoh
Reviewed by Takahiro Shimpo

0:12 私がここオックスフォードの学生だった1970年代には 世界の未来は暗いものでした 人口爆発は止めようがなく 世界規模の飢餓は避けられず 環境中の化学物質が原因で癌が流行し 私たちの寿命を縮めるとされていました 酸性雨が森林に降り注ぎ 砂漠は一年に2,3kmの速度で拡大し 石油は枯渇し そして核の冬が人類を絶滅させると言われていました ですが これらの何一つとして実際には起こりませんでした (笑) それどころか 私の生涯に起こったことは驚嘆すべきことです この地球に住む人間の 一人あたりの収入が インフレ率を差し引いても 3倍になりました 人の寿命は30%伸び 幼児死亡率は2/3になりました 一人あたりの食糧生産高は 3倍になりました しかもこれらが実現する間に人口は2倍になったのです

1:07 そのことの是非はともかく どのようにして これらが可能になったのでしょう いったい私たちは どのようにして もっとも栄えつつ もっとも数の多い 唯一の種となり得たのでしょう このグラフの太さは人口の大きさを表しています グラフの縦軸は 一人あたりのGDPを表しています 先の質問に答えるには 人類が いかにして その頭脳を寄せ集め アイディアを何度も何度も組み合わせたか 出逢わせ交わらせたかを 理解する必要があります 言い換えれば アイディアがいかにセックスしあったかを 理解する必要があるのです

1:44 想像してください どのようにして 私たちが左のものから 右のものを作れるようになったのかを 両方ともに現実に存在するものです 一方は50万年前にホモ エレクトゥスによって作られた アシュール文化期の手斧です 他方は 明らかにコンピュータのマウスですね 二つの大きさと形は気味が悪いほどよく似ています どちらが大きいかを測ってみましたが 計測はほとんど不可能でした 二つとも人間の手になじむように作られているからです 二つとも技術の産物で 類似性はさほど興味深くはありません 人間の手にしっくり来るように作られているだけです 二つの間の相違が興味深いのです 左の石斧の形は 100万年ほどの間 つまり 150万年前から50万年前まで 変化しませんでした ホモ エレクトゥスは同じ道具を 3万世代にわたって作り続けたのです もちろん多少の変化はありました しかし その頃は 道具よりも骨格の進化の方が速かったのです 道具には進歩もなければ 革新もありませんでした 驚くべき現象ですが 事実なのです ところが 右のマウスは 5年もすれば廃れてしまいます 相違がもう一つあります 左の石斧は単一の物質からできていますが 右のマウスは シリコン 金属 プラスチックなど 異なった物質の集合体です さらに これは 異なったアイディア つまり プラスチック レーザー 半導体に関する アイディアの集合体なのです この技術の産物の中にそれらが盛り込まれているのです

3:04 この組み合わせ 技術の集合が 私には面白いのです というのは それが この世界で起きていることを 理解する鍵となるからです 私の体も 皮膚細胞 脳細胞 肝細胞という アイディアの集合体です それらの細胞が組み合わさっているのです 進化はどのように組み合わせを累積できるのでしょう? それは 有性生殖によってなされるのです 無性生物の個体二つにそれぞれ突然変異が起きたとしましょう これらを緑と赤で表しましょう いずれかが他方より勝っているはずです 勝っている方が生き残り 他方は死滅します しかし 有性生物であれば 一つの個体が 異なる系統から 二つの変異を受け継ぐことも可能です 生殖は個体に 種全体の遺伝的な革新を 受け継ぐ機会を与えます それは その個体の系統に限定されません

3:55 文化の進化において 生物の進化に果たす生殖の役割と 同じ効果をあげる変化は何でしょうか? 私はそれを 交易だと考えます あるものを別のものと交換する習慣です これは人間に固有の特徴です 他の動物にはありません 実験室の中では 動物にも交換を少しは教えることができます 人類以外の動物にも交換する行為はあります ですが モノとモノとを交換することは決してありません アダム スミスも言っています 「いまだかつて 犬と犬とが 公正に骨を取引するのを見たことはない」 (笑) 交換なしでも文化は成り立ちます つまり無性生殖の文化が存在します チンパンジーやシャチなどは 文化を持っています 両親から子どもたちへと 伝統の技を伝えます 写真の場合 チンパンジーは木の実を 石で割ることを教え合っています 人類との異なりは 彼らの文化が 決して拡大 成長しない 累積しない 結合されないことにあります その理由は いうなれば セックスしないからです アイディアの交換がないからです チンパンジーは群れごとに異なった文化を持っています その間にアイディアの交換はありません

4:59 なぜアイディアの交換が生活水準を引き上げるのでしょうか その答えは デイビッド リカードの1817年の論文にあります 彼は国家間の交易について論じたのですが 石器時代に当てはめることもできます アダムは槍を作るのに4時間 斧を作るのに3時間かかるとしましょう オズは槍を作るのに1時間 斧を作るのに2時間かかるとしましょう オズはアダムよりも槍や斧作りが上手です オズはアダムを必要としません 自分で槍や斧を作れるからです しかし よく考えてみてください もしもオズが槍を二本作り アダムが斧を二丁作って それを交換するならば 双方ともに1時間節約できることになります これを行えば行うほど 節約できる時間が増えます これを推し進めると アダムはますます斧作りがうまくなり オズは槍作りがうまくなるからです 交換によって得られるものは ますます増えていきます 交換のすばらしさはここにあります 実際 交換は専門化に 弾みをつけます 専門化がさらに交換を促進します アダムとオズは1時間を節約できました これは豊かさです 必要を満たしつつ 時間が節約できたのですから

5:57 ここで 自分自身に問うてください 1時間本を読むための明かりを手に入れるのに どれだけの時間働かねばならないかを ゼロから始めるとすれば つまり農場に行って 羊を見つけ それを屠り 脂を得て それを精製して ろうそくを作る 等々 どれだけ時間がかかることでしょう?相当なものです 現代の英国での平均的な賃金労働者は 1時間の読書の明かりを得るために 実際にどれだけ働く必要があるのでしょう 答えは約1/2秒です 1950年には その同じ明かりを得るためには 8秒間働く必要がありました つまり 1950年と比較すれば 7秒半のゆとりを手に入れたことになります その時間を他の事に費やしたり 他の商品 サービス購入に充てられます 1880年に 同じ明かりを得るには 15分かかりました 1800年には 1時間灯すろうそくを買うには 6時間働かねばなりませんでした 言い換えれば 平均的な賃金労働者は 1800年にはろうそくを買えませんでした

6:58 この写真に戻り自問してください 「一体誰が誰のために作ったのだろう」 石斧は誰かが自分のために作ったものです 自給自足でした 今日ではそれを貧困と呼びます しかし 右のマウスは 他の人々が私のために作ってくれたものです いったい何人ほどでしょうか 数十?数百?数千? おそらく 数百万でしょう というのは コーヒーを栽培していた男 そのコーヒーを飲んだ石油採掘場で働いていた男 男が採掘した原油からプラスチックが作られ 等々 それらの人々がみな働いて 私にマウスを作ってくれたのです このようにして社会は機能しているのです このようにして人類は成功してきたのです

7:40 その昔 金持ちには 使用人たちが 大勢いました 人を使うことで金持ちになったのです ルイ14世には使用人が大勢いました こんな奇妙な服を作ったのは彼らです (笑) 奇妙なヘアスタイル これも使用人が整えました 彼は毎日の晩餐を準備するのに 498人をあてがいました でも ベルサイユ宮殿を巡り ルイ14世の肖像画を鑑賞する現代の観光客も やはり498人を晩餐の準備にあてています 使用人は パリ中のビストロや カフェやレストランや商店にいるのです そして1時間の猶予を与えられれば ルイ14世の晩餐よりもすばらしい内容の 晩餐を提供してくれます これが人類です 互いのために働くのです 専門性と交換によって 相互の生活水準を引き上げているのです

8:26 ほかにもお互いのために働く動物はいます 働き蟻と女王は互いにのために働きます しかしそこには一つ大きな違いがあります 他の巣との協力がないことです 異なる巣同士が協力することはありません 労働が生殖能力によって分化しているからです 生殖能力のあるなしが労働の種類を決定します 蟻の世界では生殖するのは女王のみです 人間は それを嫌います これだけは自分でやると言い張ります 生殖行為だけは (笑) イングランドでさえ それを女王に任せようとはしないのです

8:57 (拍手)

9:01 この習慣はいつ始まったのでしょうか? どのくらい続き そして何を意味するのでしょうか? おそらく この行為の最古のものは 性差による労働の分化だと思われます しかし 確証はありません 人類は最初に 男を女のために働かせ 女を男のために働かせたようです 今日のすべての狩猟採集社会では 食糧調達のための労働があり 狩猟する男と 採集する女に分化しています 常にこれほど明確ではありませんが しかし 確かに男と女の 役割は分化しているのです このシステムの優れたところは 双方に利益があることです このハザ族の場合には 女は植物の根を掘り 男の狩る動物の肉と交換するのですが 女は 蛋白質を手に入れるには 少し余分に根を掘り 肉と交換すればよいことを知っています そうすれば 体力を消耗する狩猟に出かけて イボイノシシを倒さなくてもいいのです 男は 根を手に入れるために地面を掘る 必要がないことを知っています 男は 殺すイボイノシシが 肉を分配できるほど 大きいことを確認すればいいのです このようにして男も女も性別分業により 生活の水準を上げることができます

10:03 いつから始まったから分かりませんが ネアンデルタール人には不可能でした ネアンデルタール人は高度な共同作業が可能で 高度に知的な種でした 末期には その大脳の容積は ここにいる 私たちのものよりも大きかったのです 想像力に富み 死者を埋葬しました ここオックスフォードでの発見で 彼らには 私たちと同様にFOXP2遺伝子があることが分かり おそらく言葉を用いたと思われますし 言語能力も備わっていたと考えられます 彼らは賢い原人でした 私は彼らを無視してはいません しかし 彼らには 性別分業があった証拠がありません 女が採集に従事したという証拠がないのです 女は男と共に狩猟に従事していたようです もう一つ証拠がないのは 集団の間での交換です ネアンデルタール人の遺跡で発掘される 彼らの作った道具類は 地方原産の素材で作られているからです 例えば コーカサス地方に ネアンデルタール人の道具が発掘される場所がありますが 道具はその地方のチャートで作られています 同じ谷に 現生人類の遺跡もあります 約3万年前のものです 彼らの道具の一部は その地方のチャート製ですが 多くは はるか遠く離れた場所で産出する 黒曜石で作られています このように 人類が物資を 移動させ始めたということは 集団の間に交易がなされていたということです

11:18 交易は農耕の10倍の歴史を持ちます 我々はこのことを忘れ 交易は現代のものと考えがちです 集団間の交易には 数万年の歴史があるのです その最初の証拠は120万年から80万年前の アフリカで見つかります エチオピアでは 黒曜石や碧玉その他の物資が 遠く離れたところまで運ばれていました また オックスフォード大学の チームによって発見されましたが 貝殻もアルジェリアの地中海岸から 約200km内陸に運ばれました これは 人々が 集団間の交易を始めた証拠です 交易は専門化を促進します

11:55 長距離の動きが 民族の移動によるものではなく 交易に起因すると どうしてわかるのでしょうか? 現代の狩猟採集民族である アボリジニを見てみましょう 彼らは アイザ山という場所で石斧用の石を採掘します この場所はカルカドゥーン族の領地です 彼らは隣り合う部族と交易し 石をエイの棘などと交換します その結果 石斧は オーストラリア大陸に広く行き渡るのです 道具のこのような長距離移動は交易の証で 人の移住によるものではありません

12:21 人を交易から切り離したら 専門化する能力から切り離したらどうなるでしょうか その答えは 技術の進歩が遅れるばかりでなく 実際には後退することもあるのです タスマニアにその例を見ることができます 海面が上昇して タスマニアは1万年前に島になりました 島民は オーストラリア本島の人々よりも 進歩が遅れたばかりでなく 退歩したのです 彼らは骨製の道具や漁具 そして衣服を作る能力を失いました 約4万人あった島の人口は 彼らの持っていた技術を保つのに必要な 特殊なスキルを維持するには 少なすぎたのです 私たちが無人島に置き去りにされるようなものです 私たちが身につけているもので 1万年の後も作り続けられるものがいくつあるでしょう? ティエラ デル フエゴ島では事態は異なりました タスマニアとは 島も住民もよく似ています ティエラ デル フエゴ島は 南アメリカ大陸と 狭い海峡で隔てられているので 島と大陸との間には 1万年の間 交易が行われていました 一方 タスマニアは孤島でした

13:24 写真に戻りましょう 自問してください 誰が誰のために だけでなく 誰が作り方を知っていたのか を 石斧の場合には 作った人が作り方を知っていました しかし マウスを作ることは誰が知っているのでしょう 実際誰も知りません マウスの作り方を知っている人は地球上に一人もいません これは真面目な話ですよ マウス製造会社の社長は知りません 彼が知っているのは 会社の経営方法です 組み立てラインの工員も知りません 彼は油井を掘って 石油を取り出し プラスチックを作る方法を知らないからです 私たちは皆 断片は知っていますが 全体は把握していません

14:01 私はこれを 1950年代の経済学者 レオナルド リードの有名な論文から引用しています 論文のタイトルは 「私は鉛筆」 その論文の中で リードは鉛筆ができる過程と 誰も鉛筆の作り方を知らないことを論じました 組み立て係は黒鉛を採掘する方法を知らず 木の伐採方法なども知らないからです 人間社会の中で 交易と専門化を通じて 私たちが成就したのは 私たちが理解すらしていないことを 成し遂げる能力です それは言語とは異なります 言語を用いて私たちはそれぞれが理解している アイディアを伝えますが 技術を用いれば 私たちは能力を超えることを成し遂げ得るのです

14:40 人間の精神の能力を 超えることができるのです お断りしておきますが 私はIQの議論 つまり ある集団が他の集団よりも高いIQを持っている という議論に導こうとしているのではありません そのような議論は全く無意味です 社会にとって意味があるのは 人々がいかに上手にアイディアを伝達しあっているか いかに上手に協力しているかであり その集団の個人がいかに賢いかではありません 私たちは「集団脳」を創り出しました 一人一人はその網の目の結節にすぎません 私たちは集団脳のニューロンなのです 科学技術を 少しずつ 一歩一歩 前進させているのは アイディアの交換であり アイディアの出逢いと交流なのです しかし 悪いことも起こります 将来的には 私たちは恐ろしいことも経験するでしょう 戦争や恐慌や 天災もあるでしょう 今世紀中に恐ろしいことが起きるのは確かです しかし 人々が作り出す アイディアを 出逢わせ交流させる能力が これまでになく活発になることも確かです 私はまた 科学技術の発展に伴い 生活水準も向上すると確信しています インターネットを通じて クラウドソーシングを通じて 私たちが創り出す ボトムアップの世界では エリートだけでなく 誰もがアイディアを持ち アイディアを出逢わせ 交流させる この世界では 革新のスピードが一段と速まると信じるからです

16:09 ありがとうございました

16:11 (拍手)