イーサルト・ギレスピー
910,621 views • 5:07

バルドルは 主神オーディンと 女王フリッグの息子で 平和の女神ナンナを妻とする 真実と光の神で アスガルズ中で最も優しく 誰よりも愛される存在でした その宮殿ブレイザブリクの大広間では 心落ち着かせるバルドルの存在が 臣下の憂いを和らげていました しかしバルドルにも最近 悩まされていることがありました 自分に死が差し迫る恐ろしい夢を 毎晩見たのです

この不吉な予兆から 息子を守ろうと 女王フリッグは 九つの世界を巡り 生きとし生けるものに バルドルを傷つけないよう懇願しました 出会ったものはすべて その優美さに心打たれ どんな動物も 自然の力も 流行り病も 植物も 刃も 虫も 喜んで約束しました

フリッグはブレイザブリクに戻ると 盛大な祝いの宴を開きました ワインをしこたま飲んだ神々は 代わる代わるバルドルの不死身さを試しだしました 隅から見ていたロキは うんざりしていました この悪戯者の神は 光の神バルドルを気遣ったことがなく その新たな資質を 苛立たしく思いました フリッグの企てにも ほころびがあるに違いません

老婆に姿を変えると ロキはフリッグの側に行き 困惑したふりをしました なぜ神々は 誰からも愛されるバルドルを 攻撃しているのか? フリッグは誓いのことを話しましたが 老婆は引き下がらず あらゆるものから誓いを受けたわけでは ないだろうと聞きました フリッグは肩をすくめ 訪ねなかったのは ヤドリギくらいだと言いました 取るに足らない雑草を 恐れる者があるかと

それを聞いたロキは ヤドリギの枝を探しに飛び出しました 戻ってくると 宴は一層盛り上がっていましたが 楽しんでいない神もいました バルドルの弟ホズルは 盲目で武器を持たず 取り残されていました これは利用できると見たロキは 遊びに加わるよう ホズルに持ちかけました ロキはホズルにヤドリギを構えさせ 狙いをバルドルに向けると 力いっぱい打ち込むように 言いました

ヤドリギが バルドルの胸を 貫きました バルドルの光が消え その場に絶望が押し寄せました その瞬間 バルドルの死の衝撃が 九つの世界中で感じられました 嘆き悲しむ群衆の中から 勇気の神ヘルモーズが歩み出ました オーディンの並外れた馬の助けがあれば 行けぬところはないと 戦士の神は考えました ヘルの元へ赴き バルドルを取り戻そうと

ヘルモーズは九日九晩 馬を駆り 骸の間を抜け 骨で敷き詰められた道を行きました 冥界の女王の元にたどり着くと ヘルモーズはバルドルを家族の元に 帰してくれるよう頼みました ヘルは情けをかけようかとも考えましたが 神々の悼みがどれほど深いか知りたいと思い 生きとし生けるものがバルドルのために 涙を流すことを示せたなら バルドルの魂を手放そうと 約束しました

ヘルモーズは急ぎ 生者の地に戻ると フリッグが訪れたあらゆる生き物に 会いましたが みなバルドルのために涙を流し その帰還を願いました それを苦々しく見ていたロキは 自分のしたことを 無にされたくありませんでしたが 露骨に邪魔をすれば バルドル殺害に 噛んでいたのがバレてしまうかもしれません 恐ろしい巨人に姿を変えると ヘルモーズが最後に訪れる場所に身を潜めました

ヘルモーズがやってくると 唸る風とゴツゴツした岩が バルドルへの愛情を明言しましたが 間にいた巨人は バルドルへの嫌悪を示しました ヘルモーズがどれほど頼んでも 巨人は一滴も涙を流しません

最後の希望が打ち砕かれて ヘルモーズがバルドルを再び悼んでいると その嘆きを打ち消す笑い声が 洞窟から轟きました ロキの歪んだ笑い声は アスガルズの住人なら誰でも知っています 騙されていたことに気付いた ヘルモーズが ロキに飛び掛かると ロキは鮭の姿になって 滝に潜り込みました 逃げおおせたかと思えたところで トールが現れました

トールはロキを洞窟に引きずり戻すと 毒蛇と一緒に縛り付けました 永久に縛られたロキの額には 毒蛇の毒が滴り落ち アスガルズの光明を消したことを 罰しました