ダニエル・ピンク
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最初に告白させてください 20年ほど前にした あることを 私は後悔しています あまり自慢できないようなことを してしまいました 誰にも知られたくないと 思うようなことです それでも明かさなければならないと 感じています (ざわざわ) 1980年代の後半に 私は若気の至りから ロースクールに行ったのです (笑)

アメリカでは 法律は専門職学位です まず大学を出て それから ロースクールへ行きます ロースクールで私は あまり成績が芳しく ありませんでした 控えめに言っても あまり良くなく 上位90パーセント以内 という成績で 卒業しました (笑) どうも 法律関係の仕事は したことがありません やらせてもらえなかった というべきかも (笑)

しかしながら今日は 良くないことだとは思いつつ 妻の忠告にも反しながら この法律のスキルを 再び引っ張り出す ことにしました 今日はストーリーは 語りません 主張を立証します 合理的で 証拠に基づいた 法廷におけるような論証で ビジネスのやり方を 再考してみたいと思います

陪審員の皆さん こちらをご覧ください これは「ロウソクの問題」と 呼ばれるものです ご存じの方も いるかもしれません 1945年に カール・ドゥンカーという 心理学者が この実験を考案し 様々な行動科学の実験で 用いました ご説明しましょう 私が実験者だとします 私はあなた方を 部屋に入れて ロウソクと 画鋲と マッチを渡します そしてこう言います 「テーブルに蝋がたれないように ロウソクを壁に 取り付けてください」 あなたならどうしますか?

多くの人は 画鋲でロウソクを 壁に留めようとします でも うまくいきません あそこで 手真似をしている 人がいましたが マッチの火で ロウソクを溶かして 壁にくっつけるという アイデアを思いつく人もいます いいアイデアですが うまくいきません 5分か10分すると たいていの人は 解決法を見つけます このようにすればいいのです 鍵になるのは「機能的固着」を 乗り越えるということです 最初あの箱を見て 単なる画鋲の入れ物だと思います しかしそれは別な使い方を することもでき ロウソクの台になるのです これがロウソクの問題です

次にサム・グラックスバーグ という科学者が このロウソクの問題を使って行った 実験をご紹介します 彼は現在プリンストン大学にいます この実験でインセンティブの力が わかります 彼は参加者を集めて こう言いました 「この問題をどれくらい早く解けるか 時計で計ります」 そして1つのグループには この種の問題を解くのに 一般にどれくらい 時間がかかるのか 平均時間を知りたいのだ と言います

もう1つのグループには 報酬を提示します 「上位25パーセントの人には 5ドルお渡しします 1番になった人は 20ドルです」 これは何年も前の話なので 物価上昇を考慮に入れれば 数分の作業でもらえる金額としては 悪くありません 十分なモチベーションになります

このグループは どれくらい早く 問題を解けたのでしょう? 答えは 平均で― 3分半 余計に 時間がかかりました 3分半長くかかったのです そんなのおかしいですよね? 私はアメリカ人です 自由市場を信じています そんな風になる わけがありません (笑) 人々により良く 働いてもらおうと思ったら 報酬を出せばいい ボーナスに コミッション あるいは何であれ― インセンティブを与えるのです ビジネスの世界ではそうやっています しかしここでは 結果が違いました 思考が鋭くなり クリエイティビティが加速されるようにと インセンティブを用意したのに 結果は反対になりました 思考は鈍く クリエイティビティは 阻害されたのです

この実験が興味深いのは それが例外ではないということです この結果は何度も何度も 40年に渡って 再現されてきたのです この成功報酬的な動機付け― If Then式に「これをしたら これが貰える」 というやり方は 状況によっては機能します しかし多くの作業では うまくいかず 時には害にすらなります これは社会科学における 最も確固とした 発見の1つです そして最も無視されている 発見でもあります

私はこの数年というもの 動機付けの科学に 注目してきました 特に外的動機付けと 内的動機付けの ダイナミクスについてです 大きな違いがあります これを見ると 科学が解明したことと ビジネスで行われていることに 食い違いがあるのがわかります ビジネス運営のシステム つまりビジネスの背後にある 前提や手順においては どう人を動機付け どう人を割り当てるかという問題は もっぱら外的動機付け アメとムチにたよっています 20世紀的な作業の多くでは これは実際うまくいきます しかし21世紀的な作業には 機械的なご褒美と罰 というアプローチは 機能せず うまくいかないか 害になるのです どういうことか説明しましょう

グラックスバーグは これと似た別な実験もしました このように若干違った形で 問題を提示したのです 机に蝋がたれないように ロウソクを壁に付けてください 条件は同じ あなたたちは 平均時間を計ります あなたたちには インセンティブを与えます どうなったのでしょう? 今回はインセンティブを 与えられたグループの方が 断然勝ちました なぜでしょう? 箱に画鋲が入っていなかったら 問題はバカみたいに 簡単になるからです (「サルでもわかる」ロウソクの問題) (笑)

If Then式の報酬は このような作業には とても効果があります 単純なルールと 明確な答えがある場合です 報酬というのは 視野を狭め 心を集中させるものです 報酬が機能する場合が多いのは そのためです だからこのような 狭い視野で 目の前にあるゴールを まっすぐ見ていれば よい場合には うまく機能するのです しかし本当のロウソクの問題では そのような見方をしている わけにはいきません 答えが目の前に転がっては いないからです 周りを見回す必要があります 報酬は視野を狭め 私たちの可能性を 限定してしまうのです

これがどうしてそんなに 重要なことなのでしょうか? 西ヨーロッパ アジアの多く 北アメリカ オーストラリアなどでは ホワイトカラーの仕事には このような種類の 仕事は少なく このような種類の 仕事が増えています ルーチン的 ルール適用型 左脳的な仕事 ある種の会計 ある種の財務分析 ある種のプログラミングは 簡単にアウトソースできます 簡単に自動化できます ソフトウェアのほうが 早くできます 世界中に低価格の サービス提供者がいます だから重要になるのは もっと右脳的で クリエイティブな 考える能力です

ご自分の仕事を 考えてみてください あなた方が直面している問題は あるいは私たちが この場で議論しているような問題は こちらの種類でしょうか? 明確なルールと 1つの答えがあるような? そうではないでしょう ルールはあいまいで 答えは そもそも 存在するとしての話ですが 驚くようなものであり けっして自明ではありません ここにいる誰もが その人のバージョンの ロウソクの問題を 扱っています そしてロウソクの問題は どんな種類であれ どんな分野であれ If Then式の報酬は― 企業の多くは そうしていますが― 機能しないのです

これには頭が おかしくなりそうです どういうことかというと これは感情ではありません 私は法律家です 感情なんて信じません これは哲学でもありません 私はアメリカ人です 哲学なんて信じません (笑) これは事実なのです 私が住んでいるワシントンDCで よく使われる言い方をすると 「真実の事実」です (笑) (拍手) 例を使って 説明しましょう 証拠の品を提示します 私はストーリーを語っているのではありません 立証しているのです

陪審員の皆さん 証拠を提示します ダン・アリエリーは現代における 最高の経済学者の1人です 彼は3人の仲間とともに MITの学生を対象に実験を行いました 学生たちに たくさんのゲームを与えます クリエイティビティや 運動能力や 集中力が 要求されるようなゲームです そして成績に対する報酬を 3種類用意しました 小さな報酬 中くらいの報酬 大きな報酬です 非常にいい成績なら全額 いい成績なら半分の報酬がもらえます どうなったのでしょう? 「タスクが機械的にできるものである限りは 報酬は期待通りに機能し 報酬が大きいほど パフォーマンスが良くなった しかし認知能力が多少とも 要求されるタスクになると より大きな報酬は より低い成績をもたらした」

それで彼らは こう考えました 「文化的なバイアスが あるのかもしれない インドのマドゥライで 試してみよう」 生活水準が低いので 北アメリカでは たいしたことのない報酬が マドゥライでは 大きな意味を持ちます 実験の条件は同じです たくさんのゲームと 3レベルの報酬 どうなったのでしょう? 中くらいの報酬を 提示された人たちは 小さな報酬の人たちと 成績が変わりませんでした しかし今回は 最大の報酬を 提示された人たちの成績が 最低になったのです 「3回の実験を通して 9つのタスクのうちの8つで より高いインセンティブが より低い成績という結果となった」

これはおなじみの 感覚的な 社会主義者の 陰謀なのでしょうか? いいえ 彼らはMITに カーネギーメロンに シカゴ大学の経済学者です そしてこの研究に資金を 出したのはどこでしょう? 合衆国連邦準備銀行です これはまさに アメリカの経験なのです

海の向こう ロンドン・スクール・オブ・ エコノミクス (LSE) に 行ってみましょう 11人のノーベル経済学賞受賞者を 輩出しています 偉大な経済の頭脳が ここで学んでいます ジョージ・ソロス フリードリヒ・ハイエク ミック・ジャガー (笑) 先月 ほんの先月のこと LSEの経済学者が 企業内における成果主義に関する 51の事例を調べました 彼らの結論は 「金銭的なインセンティブは 全体的なパフォーマンスに対し マイナスの影響を持ちうる」ということでした

科学が見出したことと ビジネスで行われていることの間には 食い違いがあるのです この潰れた経済の 瓦礫の中に立って 私が心配するのは あまりに多くの組織が その決断や 人や才能に関するポリシーを 時代遅れで検証されていない 前提に基づいて行っている 科学よりは神話に基づいて 行っているということです この経済の窮地から 抜けだそうと思うなら 21世紀的な 答えのないタスクで 高いパフォーマンスを 出そうと思うのなら 間違ったことを これ以上 続けるのはやめるべきです 人をより甘いアメで誘惑したり より鋭いムチで脅すのは やめることです まったく新しいアプローチが 必要なのです

いいニュースは 科学者たちが 新しいアプローチを 示してくれているということです 内的な動機付けに基づく アプローチです 重要だからやる 好きだからやる 面白いからやる 何か重要なことの一部を 担っているからやる ビジネスのための 新しい運営システムは 3つの要素を 軸にして回ります 自主性・成長・目的 自主性は 自分の人生の方向は 自分で決めたいという欲求です 成長は 何か大切なことについて 上達したいということです 目的は 私たち自身よりも 大きな何かのために やりたいという切望です これらが私たちのビジネスの 全く新しい運営システムの 要素なのです

今日は自主性についてだけ お話ししましょう 20世紀にマネジメントという 考えが生まれました マネジメントというのは 自然に生じたものではありません マネジメントは 木のようなものではなく テレビのようなものです 誰かが発明したのです 永久に機能しつづけは しないということです マネジメントは 素晴らしいです 服従を望むなら 伝統的なマネジメントの考え方は ふさわしいものです しかし参加を望むなら 自主性のほうがうまく機能します

自主性について 少し過激な考え方の 例を示しましょう あまり多くはありませんが 非常に面白いことが 起きています 人々に適切に 公正に 間違いなく 支払い お金の問題は それ以上考えさせないことにします そして人々に 大きな自主性を認めます 具体的な例で お話しします

Atlassianという会社を ご存じの方はどれくらいいますか? (誰も手を挙げない) …半分もいない感じですね (笑) Atlassianはオーストラリアの ソフトウェア会社です 彼らはすごくクールなことを やっています 1年に何回か エンジニアたちに言うのです 「これから24時間 何をやってもいい 普段の仕事の一部でさえなければ 何でもいい 何でも好きなことをやれ」 エンジニアたちは この時間を使って コードを継ぎ接ぎしたり エレガントなハックをしたりします そして その日の終わりには 雑然とした全員参加の 会合があって チームメートや 会社のみんなに 何を作ったのか 見せるのです オーストラリアですから みんなでビールを飲みます

彼らはこれを「FedExの日」と 呼んでいます なぜかって? それは何かを一晩で 送り届けなければならないからです 素敵ですよね 商標権は侵害しているかもしれませんが ピッタリしています (笑) この1日の集中的な 自主活動で生まれた 多数のソフトウェアの修正は この活動なしには 生まれなかったでしょう

これがうまくいったので 次のレベルへと進み 「20パーセントの時間」 を始めました Googleがやっていることで 有名ですね エンジニアは 仕事時間の20パーセントを 何でも好きなことに 使うことができます 時間、タスク、チーム、使う技術 すべてに自主性が 認められます すごく大きな裁量です そしてGoogleでは よく知られている通り 新製品の半分近くが この20パーセントの時間から 生まれています Gmail、Orkut、 Google Newsなどがそうです

さらに過激な例を ご紹介しましょう 「完全結果志向の職場環境」 と呼ばれるものがあります ROWE (Results Only Work Environment) アメリカのコンサルタントたちにより 考案され 実施している会社が 北アメリカに10社ばかりあります ROWEでは 人々には スケジュールがありません 好きなときに出社できます 特定の時間に会社にいなきゃ いけないということがありません 全然行かなくても かまいません ただ仕事を成し遂げれば 良いのです どのようにやろうと いつやろうと どこでやろうと かまわないのです そのような環境では ミーティングはオプショナルです

どんな結果になるのでしょう? ほとんどの場合 生産性は上がり 雇用期間は長くなり 社員満足度は上がり 離職率は下がります 自主性・成長・目的は 物事をする新しいやり方の 構成要素なのです こういう話を聞いて 「結構だけど 夢物語だね」 と言う人もいることでしょう 違います 証拠があるのです

1990年代半ば Microsoftは Encartaという百科事典を 作り始めました 適切なインセンティブを 設定しました 何千というプロに お金を払って 記事を書いてもらいました たっぷり報酬をもらっているマネージャが 全体を監督し 予算と納期の中で 出来上がるようにしました 何年か後に 別な百科事典が 開始されました 別なモデルを採っていました 楽しみでやる  1セント、1ユーロ、1円たりとも支払われません みんな好きだからやるのです

ほんの10年前に 経済学者のところへ行って こう聞いたとします 「ねえ 百科事典を作る 2つのモデルを考えたんだけど 対決したら どっちが勝つと思います?」 10年前 この地球上の まともな経済学者で Wikipediaのモデルが 勝つという人は 1人もいなかったでしょう

これは 2つのアプローチの 大きな対決なのです モチベーションにおける アリ vs フレージャー戦です 伝説のマニラ決戦です 内的な動機付け vs 外的な動機付け 自主性・成長・目的 vs アメとムチ そして どちらが勝つのでしょう? 内的な動機付け 自主性・成長・目的が ノックアウト勝利します まとめましょう

科学が解明したことと ビジネスで 行われていることの間には食い違いがあります 科学が解明したのは 1. 20世紀的な報酬― ビジネスで当然のものだと みんなが思っている動機付けは 機能はするが 驚くほど狭い範囲の 状況にしか合いません 2. If Then式の報酬は 時に クリエイティビティを損なってしまいます 3. 高いパフォーマンスの秘訣は 報酬と罰ではなく 見えない内的な意欲にあります 自分自身のためにやる という意欲 それが重要なことだからやる という意欲

大事なのは― 私たちがこのことを知っているということです 科学はそれを確認しただけです 科学知識とビジネスの慣行の間の このミスマッチを正せば 21世紀的な動機付けの考え方を 採用すれば 怠惰で危険でイデオロギー的な アメとムチを脱却すれば 私たちは会社を強くし 多くのロウソクの問題を解き そしておそらくは 世界を変えることができるのです これにて立証を終わります (拍手)