エイミー・ハーマン
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この作品を見てください 皆さんが見ているのは何でしょう? 一見 大きな振り子時計に シーツが被せられていて 中央がロープで 縛られているように見えます でも一度見ると 必ず再度見たくなります では もう一度 今度は何が見えますか? じっくり見ると この作品全体が 1つの彫刻だということに 気づくでしょう 振り子時計も ロープも シーツもありません 漂白したホンジュラス・マホガニーの 一木造です

ただ ここではっきり言っておきます これは彫刻を鑑賞する 練習ではありません 見る練習なのです よく見ることを通して 命を救えたり 会社に変化をもたらしたり 子供の行動の理由がわかってくることを 理解する練習です 私は このスキルを「視覚的知性」と呼び 美術作品を通して 様々な人に教えています 教える相手は一般の人々や 見ることを仕事にしている人 例えば 米海軍特殊部隊の隊員や 殺人を担当する刑事、外傷看護師です

実は どれほど見ることに 長けていたとしても 見て理解することについて 学ぶことは たくさんあるものです 私たちは 一目見れば即座に 理解できると思いがちですが 本物のスキルは じっくりと より注意深く見る方法を 理解することからはじまります この能力は 日々 急な用事に忙殺され それにばかり気を取られている私たちが 一歩退いて 今まで見逃してきたものを 見せてくれるレンズを覗いてみることを 思い出すことからはじまります

では絵画や彫刻を見ることが なぜ役立つのでしょう? それはアートが強力な手段だからです 視覚と洞察力の両方を必要とし 私たちの立場や見ているものの理解を 再構成する強力な手段なのです

ここに1点の作品がありますが これを見て思い起こすのは 視覚的知性が 常に学習の途上にあるものであり 本当の意味で マスターはできないということです 私はこの静かで 一見 抽象的な絵に出会って 二度も三度も 近づいて見なければなりませんでした どうして この絵が心に深く響くのか 知りたかったのです ワシントン記念塔は 自分の目で 何千回も見ていますし 下から3分の1のところで 大理石の色合いが 変わっていることもよく知っています でも この記念塔だけを取り出して 美術作品として 本当によく見たことはありませんでした ジョージア・オキーフによる モニュメントを描いた この絵のおかげで 集中すれば 普段目にしているものを まったく新しい 目の覚めるような視点から 見ることが可能になると 気づいたのです

ただ「アートは美術館に」と信じる 懐疑派もいます アートには美的価値を超える 実用性などないと考える人々です 指導していると そういう人はわかります 腕を組み 脚も組んで 身振りが こう言っています 「絵画や彫刻のことを 早口でまくしたてる この女性が 一体何を教えてくれるんだ」って では どうすれば 彼らに合った 説明ができるのでしょう? そんな人たちには この作品を見てもらいます 山下工美による肖像画です 一歩前に出て さらに近づいてもらうと 作品を見ると同時に 自分が目にしているものが何か 問う必要に迫られます 正しい疑問— 例えば「この作品は何? 絵画? 彫刻? 材料は?」といった 疑問が持てれば この作品全体が 1枚の木の板と 1万本の釘 それと 1本の糸からできていることに 気づくでしょう

中には興味を持った方も いるでしょうが この作品が 人々の仕事に どう結びつくのでしょう? 答えは「あらゆる面で」です なぜなら私たちは日常的に いろいろな人と何度も接し 自分の見ているものが何かを 問うことに 長けていなければならないのですから

仕事に必要な情報を得られるような 問いを立てる方法を学ぶことは 生きる上で大切なスキルです 例えば ある放射線科医は 絵画の空白に注目することで MRI画像の目立たない異常を 見つけられるようになると話してくれました ある警察官は 絵画に描かれた 人々の間にある感情の動きを 理解することで 家庭内暴力の現場で ボディ・ランゲージを読み取れるようになり 銃を抜いて発砲する前に よく考えるようになったと話してくれました さらに親御さんたちも 絵画に色彩が無いことに気づくことで 子供たちが訴えることと 口にしないこととは 同じくらい重要だと知りました

さて 私はどうやって 視覚的知性を高めてきたのでしょうか その方法は 4つの「A」にまとめられます 新たな状況や問題が起こると 私たちは 4つの「A」を実践します まず 状況を見極めます(assess) 目の前にあるものが何かを問うのです 次に分析します(analyze) 何が重要か— 何が必要で 何が必要でないか考えます そして会話やメモ、文章、メールの形で 言葉にします(articulate) 最後に 行動します(act) 決断するのです これを1日に何度も繰り返しますが この一連の営みにおいて 見て理解することが果たす役割や 視覚的知性があらゆるものを どれほど改善するかには 気づかないものです

先日 美術館でテロ対策担当者の方々に この絵の前に立ってもらいました エル・グレコの 『神殿から商人を追い払うキリスト』です 画面中央でキリストは 腕を振り暴力的な身振りで 神殿から罪人たちを追い出しています テロ対策担当者たちに この絵を5分間眺めてもらいました この短い間に状況を見極め 詳細を分析し 自分たちが この場面にいたとしたら どうするかを言葉で表すのです お察しの通り 観察と 本質を見抜くことは異なります 自分なら誰に話しかけるか? 誰が最も重要な目撃者だろうか? 有望な目撃者は? コソコソしているのは? 一番情報を持っているのは? 私が一番気に入ったコメントは ある熟練の警官のものでした 画面中央の人物を見て こう言ったんです 「ピンクの衣を着た男がいるだろう?」 キリストのことです 「私なら彼を逮捕する 彼が騒ぎの原因だからね」

(笑)

アートを見れば テクノロジーに頼らず 問題を解決する方法を考え直す— 最高の手段が手に入ります フェリックス・ゴンザレス=トレスの 作品を見ると まったく同時に動いている 2つの時計に気づきます 時針、分針、秒針は 完璧に揃っています 時計は横に並んで くっついています 題名は『無題(完璧な恋人たち)』です 詳しく分析すると 2台とも電池式の時計ということに 気づくでしょう そして 理解するのです 「ちょっと待って… いつか片方の電池は もう1つより先に無くなる 片方の時計は いつか 先に遅れていき 止まってしまう すると この作品の対称性は 崩れるだろう」 思考過程を 言葉にするということには 緊急時に必要な対策を 考えることも含まれます 予見不能なこと 思いがけないこと— 未知のことに対する対策は そういう事態が いつ いかに起ころうと必要なものです

アートを活用して 視覚的知性を高めると 不測の事態に備えられたり 全体像と細部の両方を理解できたり 無いものに気づくようにもなります マグリットのこの作品では 汽車の下に線路がなく 暖炉には火がなく 燭台にはロウソクがないと 気づくということは 仮に「暖炉から汽車が出てきて 暖炉の上に燭台がある」と 説明した場合に比べて この絵をより正確に 描写したことになります

無いものを挙げると言っても ピンとこないかもしれませんが 実はとても役に立つ方法です ノースカロライナ州で 視覚的知性について学んだ ある刑事が 現場に呼ばれた時のことです ボートでの死亡事故で 目撃者の話によれば ボートが転覆して 乗っていた人は その下で溺れたというのです 犯罪捜査官は 本能的に 目に見えるものを探しますが この刑事のやり方は違いました 無いものを探したのです こちらの方が より難しいことです そして疑問を持ちました もし そのボートが 目撃者の証言どおり 本当に転覆したのであれば どうしてボートの端に 保管されていた書類が まったく濡れていないのだろう? この小さいけれど 重要な 1つの観察によって 捜査方針は死亡事故から 殺人事件に変わりました

無いものを挙げることと 同じくらい重要なのが 視覚的なつながりが明確ではない場面で それを見出す力です 例えばマリー・ワットによる 毛布のトーテムポールです この作品は普段使うものの中に 隠れたつながりを見出すことが 深く心に響くことを示しています 彼女は自分のコミュニティの 実に様々な人たちから 毛布を譲り受け 持ち主に頼んで その毛布が 自分の家族にとって どんな意義があるか 荷札に書いてもらいました 赤ちゃん用に使われていた毛布もあれば ピクニックで使われていたものや 犬用のものもありました どの家にも毛布はありますし その毛布が果たす役割を理解しています 同様に 私は新人の医師たちに こう伝えています 病室に入ったら カルテを手に取る前に まず部屋を見渡してくださいと 風船やお見舞いのカードはあるか? ベッドの上に特別な毛布はあるか? 医師はそこから 外の世界との つながりがあることがわかります もし患者に 手を貸して 助けてくれる人が 外の世界にいるなら 医師はそのつながりを念頭に置いて 最良のケアができます 医療の現場で人々は 医師や患者である以前に 人としてつながっているのです

ただ 知覚を鋭くする この方法は 革新的なものである必要も 見方を全面的に変える 必要もありません ホルヘ・メンデス・ブレイクの彫刻は カフカの小説『城』の上に レンガの壁を築いたもので 鋭い観察眼とは 繊細ですが 重要なものでもあることを示しています 本があることはわかりますし その本が 真上に積まれたレンガの 対称性を乱していることもわかります でも この彫刻の端まで移動すると 本は目に入らなくなります この作品全体を見ると 本がレンガにもたらす乱れは わずかですが 明らかなことがわかります 1つの思考 1つのアイデア 1つのイノベーションが アプローチに変化をもたらし プロセスを変え 命すら救うことがあるのです

私は15年以上に渡って 視覚的知性を教えていますが とても驚いているのは— しかも この先もずっと 驚き続けるだろうと思っているのは 批判的にアートを見ることが 世界という未知の領域で 私たちが居場所を定めることに 役立つのを見てきたからです 軍隊のような組織の一員であろうと 介護に従事する人や医師 母親であろうとです というのも 物事は うまくいかないものですから

(笑)

うまくいかないのです 誤解しないで 私なら そのドーナツは すぐに食べるでしょう

(笑)

ただ 私たちは自分が観察したことの 成り行きを理解したり 観察可能な細部を 実践可能な知識に変換する必要があります 例えばジェニファー・オデムによる テーブルの彫刻は ニューオーリンズのミシシッピ川河畔で 見張りに立ち ハリケーン・カトリーナの時のような 洪水の再来を警戒し 逆境に立ち向かっています 私たちにも前向きに行動する力や 事態を好転させる力があります

私はアートの世界を探求し 幅広い職種の人々に手を貸して 日常の中に特別なものを見出し そこに無いものを言葉にし どんなに些細であろうと 創造性とイノベーションを 誘発しようとしてきました とりわけ重要なことは 目には見えないかもしれない 人間同士のつながりを築き あらゆる人に 新たな視点から 自分の仕事や世界を見る力を 与えようとしているのです

ありがとうございました

(拍手)