マット・ウォーカー
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ご紹介ありがとうございます 睾丸の話から始めようと思います

(笑)

夜に5時間しか 眠らない男性の睾丸は 7時間以上眠る男性に比べると 統計的に見て小さいのです

(笑)

さらに 日常的に夜に 4~5時間しか寝ない男性の テストステロンのレベルは 10歳年上の男性と同程度です 睡眠不足が続くと この健康上重要な点から見て 10年も男性を老化させるのです 女性の生殖機能に関する健康も 睡眠不足によって 同様に損なわれます

今日の良いニュースは以上です

(笑)

ここからは悪くなる一方 かもしれません 十分な睡眠がもたらす 素晴らしく良いことを お伝えするだけでなく 睡眠不足によって 脳と身体の両方に起こる― 驚くほど悪いことについても お話しするからです

まずは 脳と 学習や記憶の機能について お話ししましょう 過去10年ほどの研究によって 明らかになったのは 学習後に睡眠が 必要だということでした いわば「保存」ボタンを押して 新しく学習した内容を 忘れないためです 最近分かったのは 学習前にも 睡眠が必要だということです 脳を学習に備えるためです 乾いたスポンジのように 新しい情報を吸収する準備を 整えるのです 睡眠不足だと 脳の記憶回路は いわば水浸しの状態になり 新しい記憶を吸収できません

データをお見せしましょう この研究で検証したのは 「徹夜には利点がある」 という仮説です 様々な個人を集めて 2つの実験グループに 振り分けました 睡眠グループと 睡眠不足グループです 睡眠グループは たっぷり8時間の睡眠をとります 睡眠不足グループは 実験室で監視下に置き 眠らせないようにします 昼寝もカフェインも禁止なので 被験者には辛い状況です その翌日に 被験者をMRIスキャナで調べます 彼らに新しい事柄を 学習させている間に 脳の活動の様子を 画像に収めるんです それからテストを解かせて 学習の効果を調べます このグラフの縦軸は 学習効果です 2つのグループの結果を 並べてみると 睡眠をとらなかったグループは 脳に新しい記憶を定着させる能力が 実に 40%も下回っています

これは憂うべき事態です 教育を受ける年代の人々の 睡眠の取り方を 考えてみてください 具体的な状況に当てはめると 40%もの差があれば テストで好成績を収めるのと 落第するくらいの大きな差です それから 脳で何が 起きているせいで こうした学習障害が 起きるのかを探りました 脳の左右には 海馬と呼ばれる組織があります 海馬というのは いわば 脳における 情報の受信箱です 新しい記憶ファイルを受け取り 貯蔵するのに 長けています たっぷり睡眠をとった人々の 脳の海馬では 学習に関連した健康な活動が 多く見られました しかし 睡眠不足の人々では 有意な信号が まったく見られなかったのです 睡眠不足によって 記憶の受信箱が閉鎖されてしまい 新しいファイルを 受け付けなかったようなものです 新たな経験を効果的に 記憶することができないのです

睡眠不足だと このような悪いことが起きるのですが 対照実験グループに いったん話を戻しましょう たっぷり8時間の睡眠をとった グループがいましたよね? 今度は別の問いを 立ててみましょう 睡眠をとった場合に 睡眠のどんな生理学的性質によって 記憶や学習能力が 日々 回復し 改善されるのでしょう? 頭部に電極を たくさんつけてみると 非常に深い眠りについている状態では 大きく力強い脳波が 観察されました この脳波が大きく高まった瞬間には 突発的な電気活動が見られます 睡眠紡錘波と呼ばれるものです この深い眠りでの脳波の 組み合わせこそが 夜間にファイル転送システム のように機能して 記憶を短期記憶という やや頼りない貯水池から 脳の長期記憶という より永続的な貯蔵庫へと移動させて 記憶を守り 保護するのです 睡眠中に 一体何が こうして記憶を処理するのかを 理解することは重要です なぜなら 医療的・社会的に 大きな意味があるからです

この調査結果を 臨床的に応用した― ある領域について お話しさせてください 老化と認知症がそうです 老化とともに 学習能力や記憶力が 低下し衰えるのは 誰もが知っています しかし 老化による― 生理学的特徴として 睡眠の質が 低下することが分かりました 特に 先程 お話ししたような 深い眠りは得にくくなります 昨年になって ようやく これら2つの現象が 同時に起こるだけでなく 大いに相関があるという根拠を 発表しました これによって分かったのは 深い眠りが妨げられることは 老化に伴う認知機能の低下や 記憶力の衰えが起こる 要因のひとつだということです そして より最近になって 分かったのですが アルツハイマー病にも 関係しています

これは非常に気分が 暗くなるようなニュースです 皆さんにもいずれ起こることです でも 希望の光が あるかもしれません 老化に関連しているとされる 他の要因とは異なるからです 例えば 物理的に構造が 変化してしまった脳は 治療することが ひどく難しいのですが 老化やアルツハイマー病に 説明をつけるための手がかりが 睡眠であるなら 素晴らしいことです 何か行動することが できるのですから

うちの睡眠研究所には 睡眠導入剤を用いずに 進めている取り組みがあります 残念ながら 睡眠導入剤は 自然な睡眠をもたらさないのです そうではなく 私たちが 発展させつつある手法では 直流電流刺激を使います 脳にごく少量の電流を流します 非常に微量なので 何も感じませんが 大きな効果を発揮します 若く健康な成人の睡眠中に この刺激を与えて 深い睡眠中の脳波の出現と 同時に刺激すると 深い眠りでの脳波の大きさを さらに増幅できるだけでなく 睡眠から得られる記憶への効用を ほぼ2倍にすることができます ここで問題となるのは この安価で持ち運びが 可能になりうる技術を 老齢の人々や認知症患者に 応用できるかということです 深い眠りの持つ 健康な質を取り戻し それによって 学習能力や記憶機能を 守ることができるのでしょうか? これが私の心からの望みです 私たちの壮大な挑戦のひとつです

以上が 脳にとっての 睡眠の役割の一例ですが 睡眠は身体にとっても 同様に不可欠なものです 睡眠不足と生殖機能の関係については もうお話ししましたね 睡眠不足と心臓血管系の機能の 関係についても お話ししましょう たった1時間がもたらす違いです 年に2回 70もの国々の 16億人を巻き込んで 地球規模で行われている実験が ありますよね ― そう サマータイムです 春に1時間 睡眠が短くなると 翌日に心臓発作の件数が 24%も増加します 秋に1時間 睡眠が長くなると 心臓発作の件数が 21%減少します すごいと思いませんか? 全く同じパターンの変化が 自動車の衝突事故や交通事故 自殺率にまで見られるのです

しかし もう一歩踏み込んで 考えてほしいのは 睡眠不足と免疫機能の関係です 画像に写った きれいな青いものを ご紹介しましょう ナチュラルキラー細胞と 呼ばれるものです ナチュラルキラー細胞は いわば免疫系統における 007のようなものです この細胞は危険で不要なものを 見つけ出して排除するのに 長けています この画像は がん腫瘍を 破壊しているところです 力強い免疫系統の暗殺者たちに 常に目を光らせていてほしいと 願ってしまうところですが 残念ながら 睡眠不足だと それは無理な相談なのです

さて この実験では 一晩中 徹夜するのではなく たったひと晩 睡眠時間を 4時間に減らして 免疫細胞の活動に どのような減少が見られるかを 観察することにしました 差は些細なものではなく 10%とか 20%どころではなく ナチュラルキラー細胞の活動が 70%も減少していたのです これは重大な免疫不全状態です これでお分かりいただけたでしょう 睡眠不足と様々な種類の がんの発症リスクは 大いに関連していると 判明しつつあるのです 現在 関連が分かっているものには 大腸がんや 前立腺がんや乳がんがあります 実は 睡眠不足とがんの関連性が 非常に高いために 世界保健機関は 夜間勤務を伴う あらゆる仕事を 発がん性があると 分類しています 睡眠リズムを乱すことになるからです

例の古い格言を 聞いたことがあるかもしれません 「死んだらよく眠れる」と言いますね いたって真面目に申し上げますが これは致命的に あさはかな助言です 何百万人もを対象にした 疫学的研究から明らかです 全くの真実なのです 睡眠時間が短ければ短いほど 寿命も短くなるのです 短時間睡眠には 様々な死亡リスクがあります

がんやアルツハイマー病を 発症するリスクが 高まると聞いても それでもまだ不安を かきたてられないなら こんな事実はどうでしょう 睡眠不足によって蝕まれるのは 生命の構造そのものです つまりDNAの遺伝子コードです また ある研究では 健康な成人を集め 睡眠を1日6時間に制限し 1週間続けました それから遺伝子活動に見られた 変化を測定して 同じ被験者が たっぷり8時間 睡眠をとった時と 比較したのです 重要な発見が 2つありました 1つめに 711個もの遺伝子の活動が 乱されていました 睡眠不足によるものです 2つめに その遺伝子の 半数ほどの活動が 活発になっていた一方で もう半分は活動が 減少していました

睡眠不足によって 活動が減った遺伝子は 免疫機能と関わりのある 遺伝子でした ここでも 免疫不全が 起こっていることが分かります 対照的に 睡眠不足によって 亢進が見られ 活動が活発になった遺伝子は 腫瘍発生の促進に関する遺伝子や 体内の慢性的炎症に 関する遺伝子や ストレスに関する遺伝子でした その結果 心血管疾患を 誘発するようなものです 端的に言って 睡眠不足である場合に それを免れて悪影響を受けずに 健康でいることは できないのです 家の壊れた 水道管のようなものです 睡眠不足は 生理機能の隅々の あらゆる裂け目に入り込み 日々の健康を形作っている DNAの核酸の配列さえ 改悪してしまうこともあります

ここまで聞いて こう思うかもしれません 「なんてことだ 睡眠の質をどう上げたらいい? よく眠る秘訣はないの?」と 有害で悪影響をもたらす アルコールやカフェインを 避けるということもそうですし 夜 なかなか寝られないのなら 昼寝をしないようにしましょう それ以外に 2つアドバイスがあります

1つめは 「規則正しさ」です 同じ時間に就寝し 同じ時間に起きましょう 平日であっても 週末であってもです 規則正しい生活は 何にも勝ります 睡眠を安定させ 睡眠の量と質を 改善してくれます 2つめは 「温度は低めに」です 眠りに就き 睡眠を維持するために 身体の深部体温を 摂氏1~1.5度ほど 下げなければなりません 暑すぎる部屋よりも 寒すぎる部屋での方が よく眠れるのは このためです 寝室の室温を 華氏65度くらい あるいは摂氏18度くらいに するといいでしょう 多くの人にとって 就寝するのに適した温度です

では最後に 少し立ち戻って 一番伝えたいメッセージは 何なのでしょうか? 次のようなことだと思います 残念ながら 睡眠は 贅沢品でも ライフスタイルの選択でもありません 睡眠は 議論の余地なく 生物学的に必要なものです みなさんの生命維持装置であり 母なる自然が限りなく 不死を目指した結果なのです 先進国の国々に見られる 睡眠時間の大幅な減少は 私たちの心身や健康状態 安全や子供の教育にまで 壊滅的な影響を 及ぼしつつあります 睡眠不足の蔓延が 静かに進行しており これは急速に 21世紀に 私たちが直面する公衆衛生における 最大の課題のひとつに なりつつあります

今こそ たっぷりと 睡眠をとる権利を 取り戻す時です 恥ずかしいと思う必要もなければ 怠け者だという汚名を 着せられるいわれもありません そうすれば 最強の生命の万能薬を 取り戻すことになるのです 睡眠は いわば 健康にとっての万能ナイフです

演説はこのくらいにして おやすみなさい 健闘を祈ります そして 何よりも― よく眠れますように

ありがとうございました

(拍手)

ありがとう

(拍手)

ありがとうございます

(デイヴィッド・ビエロ) いえいえ そのままで 逃げないでくれて ありがとうございます 恐ろしい話でした

(マット・ウォーカー)どういたしまして (デイヴィッド)ありがとう 寝だめして睡眠を取り戻せないなら どうしたらいいんでしょう? 夜中に眠れずに 寝返りばかり打っていたり 夜勤で働いていたりする場合は どうしたらいいですか?

(マット)確かに睡眠を 取り戻すことはできません 睡眠は銀行ではないので 負債をため込んで いつか精算できると 望むことはできません 非常に破滅的で 健康が急速に損なわれる理由も お話ししておくべきですね 1つめに ヒトは 特に理由もなく 意図的に自ら 睡眠不足に陥る― 唯一の生物だからです

(デイヴィッド) 賢いからですよね

(マット)つまり こういうことです 自然はこれまでに 進化の過程において 睡眠不足という課題に 直面する必要がなかったんです それゆえ セーフティーネットがなく だからこそ睡眠不足になると 脳でも身体でも 非常に急速に崩壊が進むんです とにかく睡眠を 優先するほかないですね

(デイヴィッド)そうですか でも眠れない場合は どうしたらいいですか?

(マット)ベッドに入ってから 起きたままでいるなら ベッドから出て 他の部屋に行って 別のことをしてください なぜなら 脳がすぐに寝室を 起きているための場所と 認識するからです その結びつきを 取り払う必要があります 眠いときにだけ 寝室に行くようにしましょう そうすれば それまでの 結びつきを学び直して ベッドを寝る場所と認識できます 例えるとすれば 食卓について空腹になるのを 待ちませんよね ベッドに横になって 眠れるのを待つのも同じです

(デイヴィッド)なるほど 目が覚めました 素晴らしいです

(マット)どういたしまして ありがとう