ダニエル・レヴィティン
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数年前 私は自分の家に 侵入しました 車で帰ったところで 真冬のモントリオールで 真夜中近くのことです 町の向こうに住む友人の ジェフを訪ねた後で 玄関先の温度計は -40度を指していました 摂氏か華氏かは 気にしないで下さい -40度で両者は一致します とても寒かった 玄関先に立って ポケットを手探りして 鍵がないことに気付きました 実は 窓越しに 鍵が見えていました ダイニング・テーブルに 置いたままです 慌てて走り回って他のドアと 窓を開けようとしましたが しっかり戸締りされていました 少なくとも携帯はあったので 鍵屋を呼ぶことも考えましたが 真夜中では鍵屋が 来るまでに時間が掛かるし とても寒かったのです 翌日 早朝便で ヨーロッパに行く予定で パスポートと荷物が 必要だったので ジェフの家に戻って 泊まる訳にもいきません

だから 絶望と 凍えるような寒さの中で 大きな石をみつけて 地下室の窓を壊しました ガラスの欠片を片付けて 這って入り 段ボールをみつけて 壊した窓に張り付けました 朝 空港に向かう途中で 電話で請負業者に修理を 依頼すれば良いと考えました 高くつきますが 真夜中に鍵屋を呼ぶよりは 高くないはずです だから あの状況では 差し引きゼロだと考えたのです

私は神経科学者なので ストレスを受けた時の 脳の働き方を少々知っています ストレスでコルチゾールが 放出されて心拍数が上がり アドレナリン濃度を調節して 思考能力を低下させるのです だから翌朝 睡眠不足で起きた時に 壊れた窓を心配し 請負業者に 電話することを気に掛けて 凍えるような寒さと 近付くヨーロッパでの会合と 脳内のコルチゾールで 思考能力は低下していました でも 思考能力の低下で それに気付いていません

(笑)

空港のチェックインカウンターに行くまで パスポートがないことに 気付きませんでした

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40分掛かりましたが 雪と氷の中 大急ぎで家に戻り パスポートを持って 急いで空港に戻りました 何とかぎりぎりで 間に合いましたが 私の座席は 他の人に譲られていたので 後方のトイレの隣りになり 8時間の飛行中 座席を倒せませんでした その8時間 一睡もせず 考える時間が沢山ありました

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そして悪いことが 起きるのを防ぐため 私に何ができるのか どんな手立てがあるのか 考え始めました 少なくとも もし悪いことが起きても 完全な大失敗になるリスクを 最小限に抑えるのです それを考え始めましたが 約1か月後まで 考えが具体化しませんでした 同僚でノーベル賞受賞者の ダニー・カーネマンと夕食中に 窓を割ったことと パスポートを忘れたことを やや困ったように話しました するとダニーが 「先見の後知恵」を 紹介してくれました

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彼は数年前にこれについての 本を書いた心理学者の ゲーリー・クラインから 着想を得ました 「事前分析」とも呼ばれます 事後分析は知っていますね 災害がどこかで起きると 専門家チームが来て その原因を探りますね? ダニーが言うには 「事前分析」は 将来を見越して 発生しうる全ての問題を洗い出し それが起こらないように もしくは損害を最小限にする 方法をみつけることです

だから今日 皆さんにお話ししたいのは 「事前分析」方式でできることです 分りやすいことも そうでないこともあります 分りやすいことから始めましょう

家でなくしやすい物は 置き場所を決めます これは当たり前に聞こえますし その通りです しかし空間記憶の 働きに基づいた これを裏付ける 沢山の科学的分析があります 海馬と呼ばれる脳の組織は 重要な物の場所を 記憶するために 何千年にも渡って進化しました 井戸や魚が採れる場所 果樹の木立 仲間や敵の部族の 住む場所などです ロンドンのタクシー運転手の 脳の海馬は拡大しています 海馬によってリスは 木の実をみつけます 疑問に思う方には 実際に行った実験があります リスの嗅覚を遮断しても 木の実をみつけられる というものです リスは臭いを使わずに 海馬を使っていました 物探しの為に絶妙に進化した 脳の機能です しかしあまり移動しないものには とても良いのですが 移動するものには あまり適しません これが車の鍵、老眼鏡 パスポートをなくす理由です だから家では 鍵の置き場所を決めます ドアに掛けたり お皿に置いたりします パスポートは 決まった引き出しに入れます 老眼鏡は 同じテーブルに置きます 場所を決めて それをきちんと守れば 必要な時には いつもそこにあります

旅行中はどうでしょうか 携帯でクレジットカードや 運転免許証や パスポートの写真を撮って 自分にメールしておけば クラウド上に置かれ なくしても再発行が 簡単になります

これらは比較的 分りやすいことです ストレスで脳はコルチゾールを 放出することを忘れないで下さい コルチゾールは有毒で 思考能力を低下させます ですから「事前分析」を行うには ストレスを受けている時は ベストの状態ではないと認識すること そして準備する必要があります

恐らく医学的決断をする場面に 直面する時ほど ストレスが多い状況は ないでしょう いつか私達は 皆そうした立場に置かれます 自分や愛する人を助けるための これから受ける治療を決定する とても重要な決断をするのです

その事についてお話しします 特定の病状について お話ししますが これは全ての医療上の決定や 実際には財務や 社会的意志決定にも適用できます どんな決定をするにしても 事実の適正評価が役立ちます

病院に行き 医師にこう言われたとします 「検査結果によると コレステロール値が少し高いですね」 高コレステロール値は 心疾患、心臓発作 脳卒中のリスクを高めることは 皆さんご存知ですね だから高コレステロールは 好ましくないと考えます そこで医師が「スタチンという コレステロールを下げる 薬を処方します」と言います スタチンをご存じかもしれません 今日 世界で 最も広く処方されている 薬の一つで 知り合いが 飲んでいるかもしれません だから「そうだ スタチンを下さい」 と考えます

しかし この時点で するべき質問があります ある統計値を聞くのです ほとんどの医師が 話したがらないことで 薬品会社は 更に話したくないことです 治療必要例数のことです 治療必要例数とは 何でしょうか? 薬の服用や手術 何らかの医療処置で 一人が助かるまでに そうした処置をする 必要がある人数のことです 何てでたらめな統計値だ と思っていますね? この数は1なはずです 私の主治医は効き目がなければ 薬は処方しないだろう しかし 実際には医療行為は そんな風にはいきません これは医師の責任ではなく 強いて言うなら 私のような科学者達の責任です 基本的メカニズムを 十分に把握していなかったのです グラクソ・スミスクラインの 見積もりでは 90%の薬は 30~50%の人にしか効きません では最も広く処方されている スタチンの治療必要例数は 何人だと思いますか? 1人が助かる前に何人 服用する必要がありますか? 300人です この数字の根拠は 研究医のジェローム・グループマンと パメラ・ハーツバンドの研究で 第三者機関のブルームバーグによって 確認されています 私もこの数字に目を通しました 1件の心臓発作、脳卒中 その他の有害事象を防ぐ為 300人が1年間 薬を服用する必要があるのです

皆さんこうお考えでしょう 「コレステロールが低下するのは 300に1人の確率ですね 良いです 処方箋を下さい」 しかし この時点で 他の統計値も聞くべきです それは「副作用について 教えて下さい」ですね? この特定の薬では 5%の患者に副作用が起きます ひどいものも含みます 筋肉の衰弱、関節痛、胃腸障害- でも あなたは こう考えていますね 「5%なら自分には 起きないだろう この薬を服用しよう」 でも 待って下さい ストレスで思考能力が 低下していますね だから 前もって 対処する方法を考えましょう その場で論理の鎖を 作る必要はないのです 300人が薬を服用しますね? 1人が助かり 300人中5%に 副作用が起きます つまり15人です 薬で助かるよりも 副作用を受ける可能性が 15倍あるのです

スタチンを服用するべきかどうかの 話ではありません こうした話を担当医とするべきだ と言っているのです 医療倫理上 必要なことです インフォームド・コンセントの 本質たる部分です リスクを負うかどうかの 話を始めるために 皆さんにはこうした情報を 知る権利があります

こう考えるかもしれません この数字は衝撃を与える為に 持ち出したのだと しかし実際 この治療必要例数は 典型的なものです 50歳以上の男性に 最も広く行われている 前立腺癌の除去手術の 治療必要例数は49です そうです 1人助かるごとに 49の手術が行われているのです この場合 50%の患者に 副作用が起きます 副作用には インポテンス、勃起障害 尿失禁、直腸裂傷 便失禁が含まれます この50%に入っていても 運が良ければ こうした症状は 1~2年で治まるでしょう

「事前分析」の考え方は 話し合いを進めるために 聞くかもしれない質問を 前もって考えることです その場で全てを 考えたくないでしょう 生活の質などについても 考えたいはずです 大抵 選択肢があるからです 痛みはないが 短命で良いか 最期までかなりの痛みがあっても 長生きしたいのか こうしたことは 家族や愛する人達と 今 話して考えることです その場の勢いで 考えが変わるかもしれませんが 少なくともこうした考え方を 実践しています

脳はストレスでコルチゾールを 放出することを忘れないで下さい その時に起きることの一つは 体の多くが 機能しなくなることです これには進化的理由があります 捕食者と対面した時 消化器官や 性欲や免疫システムは 必要ありません こうしたことに 体が代謝を費やしていると 素早く反応できずに ライオンの昼食になるかもしれないので どうでも良いことなのです 不幸にも ストレス下でこうした事の一つが 完全に消えてなくなるのは 合理的で論理的思考だと ダニー・カーネマンと 彼の同僚が示しています この種の状況に対して 前もって考えることを 身に付ける必要があります

ここで重要なのは 私達は皆 欠点があると認識することです 皆 時々失敗をします 「事前分析」はどんな失敗に対しても 前もって考えること 損害を最小限にする方法を 導入すること 最初から悪いことが 起きないようにすることです

あの雪の夜の モントリオールに戻ると 出張から帰った時に 請負業者に 覚えやすい番号の ダイヤル錠付きキーボックスを 玄関横に設置してもらいました 正直に言うと 私はまだ未整理の 手紙を山積みにしているし 読んでいないメールも 沢山あります 完全にきちんとしてはいません でも私はこうした体系化は 段階的なことと考えます 着々と進んでいます

どうもありがとうございました

(拍手)